「ねえ、凛……本当に、勝手に寮に入っちゃって大丈夫なの…?」
「今は夏休みで実家に帰ってる奴が多いんだよ。管理人もいねぇし、バレねぇよ」
鮫柄学園は男子校だ。そんな学校の寮はもちろん男子寮だし、そもそも敷地内に女子高生が足を踏み入れることも学園祭くらいで滅多にない。
「でも万が一見つかったらさ……やっぱりどこかに遊びに行かない?」
「……外は暑いだろ。大丈夫だって。ほら、ここが俺の部屋」
近くの部屋の奴らがいない時期を確認して、何日も前から掃除をして、名前を連れ込むタイミングをずっと見計らっていた。
俺は寮暮らしだし名前も実家暮らしで、なかなか二人っきりになれるタイミングは無い。
それに、付き合ってから初めて一緒に過ごす夏。こんなチャンスを逃せる訳ねぇだろ。
少し躊躇う名前の手を引き、部屋に招き入れた。
「お邪魔します…綺麗にしてるんだね。男の子の部屋に入ったの初めてだから、なんだか感動しちゃう」
机と二段ベッドが置かれたシンプルな部屋をきょろきょろと見回す。
「ほら、喉乾いただろ?これ」
「わ、ありがとうっ」
俺が投げた缶ジュースを慌ててキャッチし、はにかむ姿はとてつもなく可愛い。
「とりあえず座れよ」
「うん」
まず俺がベッドに座り、隣をポンっと叩き、名前を誘う。
下心があるように見えてないよな…いや、下心はあるが、がっついているようには見せたくない。
横目でちらりと様子を伺うと、名前は暑いのか、服の胸元をパタパタと仰いでいる。暑い中歩いてきたせいで、少し汗ばんだ肌が色っぽい。
「…暑いか?温度下げるな」
「あ、ごめんね!ありがとう」
エアコンの設定温度を下げる。
それからしばらく学校の話や、夏休みの予定について話していたが、いつそういう雰囲気に持っていこうだとかそんなことを考えていたら話が頭に入ってこない。
「ねー凛、ちょっと寒くなってきちゃった。エアコンの温度上げてもいい?」
名前のその一言に、俺はゴクリと唾を飲んだ。
「…寒いなら、もっとこっち寄れよ」
「えっ…………でも、……私、汗くさい、かも」
「別にそんなことねぇし、気にしねぇよ」
「そ、そう?じゃあ…」
躊躇いながらも俺にぴったり寄り添う名前を脚の間に座らせ、後ろから抱き締める。
「凛、あったかい……それに、ドキドキしてるみたい」
どくん、どくんと鳴る鼓動が名前の背中越しに伝わっているのがなんだか余裕が無いみたいでカッコ悪い。
「…黙ってろって」
「んっ」
たまらず首筋に顔を埋めると、甘い香りがした。
舌を這わせると、少ししょっぱい。
そのギャップに興奮した。
「ぁっ…凛、だめだよっ…」
「誰もこねーよ……ここには俺とお前しかいない」
「でも…っ」
「…な?」
「……う、ん」
名前が顔を真っ赤にして弱々しく頷いたのを合図に、俺は噛み付くように口付けた。
固く閉ざされた唇に舌を這わせ、空いた隙間から滑り込ませる。
名前の熱くとろける舌と絡ませ、口内を貪る。
唾液が交わるエロい音と吐息が部屋に響き、段々と身体が熱くなっていく。
「ぁっ…はぁ、……凛っ……」
ちゅぷ、と名残惜し気に離れた舌からは唾液が滴り、名前は潤んだ瞳で俺を見つめる。
良いんだな?このまま続けても。
唇についた唾液を指で拭ってやると、名前は微かに頷いた。
俺は名前の身体を優しくベッドに押し倒し、ゆっくりとブラウスのボタンを外していく。
「凛……大好き」
「ああ、俺も」
たまらず、もう一度唇を重ねる。
俺はこれから名前を抱くんだ。
早く、早くと急き立てる気持ちを抑え、名前を安心させるように何度も何度も口付ける。
名前の緊張が解れ、残りのボタンを外そうとした時、ドタドタドタ!と誰かが廊下を走る音が響いた。
「えっ、凛、ど、どうしよっ…」
「チッ、!とりあえず布団被ってろ!」
そのまま通り過ぎろ、という願いは虚しく、騒がしい音は俺の部屋の前でピタリと止まった。
「松岡先輩!!!」
勢い良く開かれたドアから入ってきたのは同室の後輩、似鳥。
思わず頭を抱える。
「ど、どうしたんですか松岡先輩!?」
「あー……お前、実家に帰ってたんじゃねぇの…」
「はいっ!ただ、松岡先輩が実家に帰る期間が短くなったと聞いたので、僕も予定を変更して早めに帰ってきました!」
「………なんでだよ……」
「その、えっと、松岡先輩と二人で練習とか一緒にできたらなーって思って………迷惑ですよね、ごっ、ごめんなさい!」
後輩に慕われるのは悪い気はしない。
でも、今はタイミングが悪い。
長い溜息が漏れたのも仕方ない。
「別にそんなんじゃねぇよ。お前、荷物まだ外にあるんだろ?取ってこいよ。そしたらロードワーク付き合え」
「まっ、松岡先輩〜〜〜!!!」
「あー、もう泣くな。早く行け。……ついでにスポドリ買ってこい」
「はいっ!!!!」
似鳥が部屋から出て行くと、俺は布団をゆっくりと剥いだ。
「…悪ィ、名前」
「ううん、大丈夫。凛、ちゃんと先輩してるんだね」
乱れた髪を直しながらゆっくりと起き上がった名前は怒るわけでもなく、不機嫌そうでもなく、むしろ嬉しそうに俺を見つめた。
「私、凛のそういうぶっきらぼうな優しさが、大好き」
「……意味わかんねー」
「…ね、続きはまた今度……してくれる?」
"今度親が旅行に行って、家に誰もいない日があるの"
そっと耳元で囁かれ、思わず目を見開く。
少し恥ずかしそうに名前が微笑んでいる。
あー、もう、反則だろ!めちゃくちゃ可愛い。俺の彼女。
「名前…!」
「…ほら、後輩くんが戻って来る前に帰らないと」
「……もう少しだけ」
腕の中にすっぽり収まる小さな身体が愛おしくてたまらない。
できることなら、このまま離したくない。
(時間が止まれば良いのに)
2014/7/27
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コメントの中から「俺様凛ちゃんに男子寮に連れ込まれてイチャイチャ」+「思春期凛ちゃんのどきどきな話」をミックスさせて頂き、思春期凛ちゃんに男子寮に連れ込まれてアーーッな話にしてみました。
大変遅くなりましたが、読んで頂き本当にありがとうございます!