プリメーラ -PREMERA- | ナノ


...assembly 2








…一刻前

[side: S]





…あれから二週間が経った。



既に傷は癒え
前と変わらない生活が戻ってきた。


ただ一つ挙げるのなら

未だ部屋の隅に持ち主を無くした机が置いてある。


…幾度か片付けようとしたのだが

リリネットがどうしてもとゴネるので
処分するのを諦めた。

しかし正直な所 あまり見たいものではない。


否応なしに視界に入る机から視線をズラすと
自然と溜息が零れる。




…アイツは別段騒がしい類では無かったが
やはり少しだけ
宮の中が寒々しくなった気がする。

…恐らくリリネットが大人しいことも
作用しているのだろうが。




「はぁ…」




ごろりと
クッションの山の中寝返りを打つ。

ふかふかの山の中に埋もれているというのに
全く眠気がやってくる気配が無い。




…別に前の生活に戻っただけだ




今までずっと二人でやってきたのだ。

今更寂しさ等感じる筈も無い。




そう 自分に言い聞かせ
スタークは瞳を閉じた。







---十刃諸君---






前触れ無く

空気が震えた。




---一刻後、会合の間に集まってくれ

 突然ですまないが遅れないように---




それだけ言うと空気の震えは止まる。




「…だってさ」




ぴょこんと柱の影からリリネットが顔を出した。
パチリと目が合い数秒間見つめ合う。




「…めんどくせえな」




スタークは深く溜息をつくと起き上がり
リリネットに背を向けると扉へと向かった。











「…用件って何だろうね

僕実験途中だから
早めに戻りたいんだけど」


「あァ?俺が知るかよ

失敗しちまえカスが」




静かな部屋の中が少しだけざわめく。


ザエルアポロとノイトラのやりとりを何となく聞きながら目を閉じると
少しだけ眠気に襲われる。


すると一瞬静まり返った部屋で
グリムジョーが声を発した。


まどろんでいた瞳を開けると
丁度こちらを見ていたグリムジョーと目が合う。




…何を今更言ってんだ?




一週間程前に宮に来た時に
散々人の傷を抉ろうと試みたと思えば
イアンが居ないことをやけに気にしていたが…

今更状態の確認など解りきっていることを
何故聞くのかと
思わず顔をしかめると

グリムジョーはニヤリと不穏な笑みを浮かべた。





…案の定の展開に
槍玉に上げられたスタークは怠そうに溜息をつく。


ザワザワと騒がしさが広がりはじめた頃




足音が響いた。




「…皆集まったようだね」




不意に届いたその声に

先程まで騒がしかった部屋の中が
しんと静まり返る。

皆の視線が注がれる中
悠々と歩いてきた藍染は

静かに椅子に腰掛けると笑みを浮かべた。




「各々忙しい所をすまない」




そう言いながら
藍染は一人ずつ順番に視線を交える。


バチッとスタークと目が合った時
微かに笑みが深まったような気がした。

それを見たスタークの眉間には皺が寄る。

だがそれも一瞬の事で
藍染はすぐに他の者へと視線を移した。




バラガンを引き金にヤミーが騒ぎ立てると
ウルキオラが無言で制し場を収める。




その間もスタークは視線を逸らさず
藍染の真意を探ろうと見つめ続けた。




「…藍染様

我々を集めた用件とは
なんでしょうか?」




ウルキオラが仕切り直すように問い掛けると
水を打ったように再び静寂が訪れる。

藍染はフッと目を細めると
何気なく背後に視線を送った。




「ああ…



 …来なさい」




シャラ…ン




「……!!」




藍染が声を掛けると

扉の影から白い衣に身を包んだ女が出て来た。


その女を見た瞬間

感じた霊圧にスタークは微かに目を見開く。




…まさか




吸い付けられるかの様に見つめていると
にわかに視線を感じた。

目だけを動かしそちらを見れば
藍染がこちらに向けて微笑んでいる。




…まさか そうなのか




瞬間

彼が感じた疑問は一縷の願いを残し
確信へと変化していく。



そうであって欲しくない、と
願うのも儚く






「今度から私の補佐を務める


 イアン・ソピアーだ」







現実はいつも

予想以上の残酷さを突きつけるのだ。







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