プリメーラ -PREMERA- | ナノ


...assembly








脆弱な飾りは頑強な鎖

消えない為の蜘蛛の糸

それらは全て

猫の鈴






「…用件って何だろうね

僕実験途中だから
早めに戻りたいんだけど」


「あァ?俺が知るかよ

勝手に失敗しちまえカスが」




虚夜宮の会合の間。


部屋の中央に置かれた巨大なテーブルの周りに
集められた十人が座っている。



その雰囲気が気に入らないのか
ザエルアポロがちらりとノイトラに視線を送る。

だが問い掛けられたノイトラは吐き捨て
虫の居所が悪そうに椅子を鳴らした。


その様子にザエルアポロは肩を竦めると

テーブルに肘をつき顎を乗せ周りを見渡し
未だ広く空いている一辺を見遣る。


そこは、我等が王が座る場所。








……一刻前に召集が掛かった。


何の前触れもない突然の呼び出しにも関わらず
十刃は迅速に集まる。

王の呼び出しに応えるのは重臣としては当然のこと。


だが王には従っても

それ以外の者に従う気はおろか
親しくするつもり等微塵も無い者達が集まって居るだけあって

その部屋には重苦しい空気が流れていた。




「…おいスターク


てめえ傷は塞がったのか?
随分と手酷くやられたみてえじゃねえか」




じっとこちらを見ていたグリムジョーが
不意に問い掛ける。

静けさにこれ幸いと半分寝ていたスタークは

んあ?

と顔を上げるとグリムジョーと視線を交えた。


他の者が居る場で話し掛けて来ることなど滅多に無いというのに

あまつさえ傷の心配とはどういう風の吹き回しかと
怪訝そうな顔を見せると

すかさずグリムジョーはニタリと笑い
自分の手の甲をスタークにかざす。




「そんなんじゃ泣いてるぜ?

そろそろ降りた方が良いんじゃねえか」




手の甲に刻まれた数字が。

と、言外に示したグリムジョーの笑い声が静かな部屋に響く。




「…そうじゃな

 そもそも儂の上が居るというのは
 気にいらなかったんじゃ」




グリムジョーの嘲笑に乗せるように
バラガンもジトリとスタークを睨む。


他の者達からも同様の視線が向けられ

その雰囲気にふぅ、と半ば呆れた溜息が
スタークの口から漏れた。


それを皮切りに
ザワザワと騒がしくなり始めた頃




…カツンッ




突如室内に足音が響いた。




「…皆集まったようだね」




不意にかかったその声に
十人が一斉に注意を向ける。


今までの喧騒が嘘の様に
室内は静まり返り


コツコツと床を叩く男の靴音だけが響く。




「各々忙しい時にすまない」




椅子に静かに腰掛けると同時に
男の前に琥珀色を揺らめかせたカップが置かれる。




「…まったくじゃな

儂はそこら辺の奴と違って忙しいんじゃ」




続いて十人の前にも一つずつカップが置かれたが

それを一瞥もせず
バラガンが不愉快そうに鼻を鳴らし顎で周りを指す。

すると「あァ?」と声が上がった。




「ふざけた事言ってんじゃねえぞ
俺達はさっき帰ってきたんだぜ


なあウルキオラ!!」




ドンッと机を叩くと同時に
ガチャンとカップが揺れる。

だが同意を求められたウルキオラは
ちらりとヤミーを一瞥すると

無言のまま視線を外した。

その扱いにヤミーは不満げに怒気を発したが




「…藍染様

我々を集めた用件とは
なんでしょうか?」




構わず言葉を続けたウルキオラに負け
渋々大人しくなる。


そのやりとりの一部始終を
机に両肘を付きながら黙って見守っていた藍染は
ウルキオラの問い掛けに姿勢を戻し




「ああ…


…来なさい」




薄く笑みを浮かべたまま

今自分が入って来た入口に視線を送る。




シャラ…ン




「……何だァ?ソイツは」




藍染が声を掛けると

扉の影から白い衣に身を包んだ女が現れた。


自分達が着ている服よりも軽そうな
微かな風にもヒラヒラと揺らされている衣を身に纏い


…それはまるで踊り子の様ないで立ちで

見れば至る所に見える装飾品が
彼女が歩を進める度にシャラシャラと音を鳴らし耳に届く。



初めて目にするタイプの『同胞』に
思わずノイトラが剣呑な声を出した。


だが突然現れたその同胞は

第五十刃が放つ殺気にも臆する様子はなく軽やかに歩みを進め
藍染の椅子の横に立つ。

自分の脇に立たれたグリムジョーが

ノイトラの呟きに同調するかのように睨み上げたが
次の瞬間僅かにその顔に疑問の色を浮かべた。




「…テメエは……?」




何かに気付いたグリムジョーが問うよりも早く

藍染が口を開いた。




「…今度から私の補佐を務める


イアン・ソピアーだ」








……運命が廻りはじめる





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