プリメーラ -PREMERA- | ナノ


Return of WOLFs








『………』





『待てよ…




 「…行かないでくれ!!」』






ハッ




自分の怒鳴り声で目を開ける。


白い天井が目に入ると同時に

ガバッと勢いよく起き上がった。




「…っ!!

 いっ…てえ…っ」




瞬間

身体を突き抜ける痛みに

思わず胸を押さえると呻き
ハァッと短く息を吐き出した。

はだけたシーツからは
包帯を巻かれうっすらと汗ばんだ身体が露わになり

非常に痛々しい。




カチャッ




「…気がついたみたいだね」


「!!!!」




痛みに顔をしかめていると

静かに扉が開き
するりと一人の男が入ってきた。




「…………ザエルアポロ…」




入ってきた男を確認すると
スタークはピリッと霊圧を尖らせる。




「ふふ…

 そんなに身構えなくても
 何もしないさ」




そのまま近付いてきた男は

ベッドの横の机に
手に持っていた箱を置き

何やら用意を始める。




「…リリネットは何処だ」




男の手元を眺めながら
警戒を緩めず問い掛ける。


すると男はちらりとこちらを見た後
手を止めフフッと笑みを零した。



スタークの眉間の皺が深まる。




「…隣の部屋にいるよ

 なかなか君達は大変でね


 何せ生かしておくつもりは
 無かったから」




お陰で僕が
治療もしなくちゃいけなくなって

面倒だよ本当。




さらりと告げた男は

ふぅ とわざとらしく溜息をつき
額に手を当て頭を振る。


ふと横に目をやれば

これ以上無いほど険しい顔で
睨みつけてくる瞳と目が合った。

その視線にふっ と
小馬鹿にしたような笑みを返し

箱から新しい包帯を取り出すと

スタークに巻いてある包帯を
取り替えようと手を掛けた。




パシッ




「………全く面倒な患者だね」




包帯を外そうとした手が振り払われ
男は呆れた様に呟く。




「…悪いが

 薬盛られた相手を
 全面的に信用する程

 バカじゃねえよ」


「…まぁ、それもそうだろうね」




スタークの言葉に

一瞬眉を上げた男は肩を竦めた。




「別にもう何もしないさ


 『何もするな』


 って御達示もきてるしね」




箱に包帯を戻しパタンと蓋を閉じた。

その言葉にスタークは僅かに眉を寄せる。




「…?どういう…」




事だ、と続けようとした矢先


勢いよく扉が開いた。




バンッ
バキッ




「スターク!!生きてる!?」




バタバタと転がり込んできた少女が
慌ただしくスタークに駆け寄る。




「おっと…」




あわやぶつかりそうになった所で
ひらりと避け

隣の部屋で寝ていた筈の少女に
視線を落とす。




「大丈夫!?

 なんもされてない!?」




ベッド横に陣取ったリリネットは

ぺたぺたと
包帯だらけのスタークの身体を
確認するように触る。



その発言に

失礼だね。 と目を細めるも

一気に蚊帳の外へと追いやられた男は
今少女が開けた扉に目をやった。




蝶番が壊れプラプラと揺れる扉は

もはやその役割を果たす事は
無理そうだ。




男は何やら思案した後

背後のスタークと彼に縋り付く少女に
ちらりと視線を注ぐと

やれやれと溜息を零す。




「…修理費は後で請求するよ」




眼鏡を上げながら呟くと

箱を持ち上げ静かに出口へ向かう。


リリネットに気を取られていたスタークは

ハッと気が付くと




「待っ…!!」




咄嗟に手を伸ばす。




正に出ていこうとしていた男は

入口から出た所で立ち止まると
こちらを振り返り

スタークを視界に入れる。



そのまるで状況を掴めていない表情に

男は可笑しさが込み上げてきて
思わずククッと笑い声が漏れた。




「…そんなに焦らなくても
 直ぐに解るさ



 直ぐに。ね」




そう言いカチャリと眼鏡を上げると



廊下の奥へと消えていった。










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