プリメーラ -PREMERA- | ナノ


A countdown to the parting -1- [awake] 1









状況は  最悪だった






----虚夜宮の見慣れた一室




王の間




玉座に座る藍染と

その横には二人の男が控えていた。




膝をつくイアンの傍らでは

帰刃の解けたスタークとリリネットが倒れ

今にもその呼吸を止めようとしていた。




早く治療を施さなければ…っ




逸る気持ちを押し止める余り
イアンは苦々しい表情を浮かべる。

そんな胸中を知ってか知らずか
玉座から彼女を見下ろす藍染は
冷たい目をしていた。




「さて…イアン」


「はい」


「今回の経緯を

 説明してくれるかい?」


「…はい」




顔を上げたイアンは

現世に行くまでの経緯と

行ってから従属官に襲われ
市丸が現れるまでの経緯を話し始めた。



正確、且つ慎重に報告を行ったが


スタークから聞いた話は
なんとなく話す気になれず


何故そこに行ったのか


という問い掛けに対しては不明としておいた。




だがその間にも
隣から伝わる鼓動は弱々しくなり

イアンの胸中は焦燥を強め苛立ちが増す。





そんな中

ある程度話を聞いた聞いた藍染は
ふむ、と相槌を打つと

口を開いた。




「…それで

 何故君はそれを報告に来なかったんだい?」


「…っ…申し訳ありません」




何故

現世に行く前に報告に来なかったのか




という藍染の問いに


言葉に詰まったイアンは
謝罪の言葉を絞り出す。

だがそれを聞いた瞬間
藍染は不愉快そうに瞳をすがめた。






「…私は謝罪が聞きたい訳では無いんだよ


 どうして 命に背いた?」


「…っ!?」




突然

イアンを圧し潰すような圧力が掛けられ
がくんと肩が抜ける。


ぴたりと覆われ
ジリジリと魂が削られていくような感覚が
容赦無く彼女を襲い

苦しさに顔が歪む。




「くっ…」




…ともすれば

万全の状態のスタークですら
膝をつくであろう圧力の中



荒くなった呼吸を少しずつ整え
落ち着きをなんとか取り戻した彼女は

ゆっくりと震える腕に力を篭め
崩れる前の体勢に戻すと

顔を上げた。




瞬間


藍染の瞳に
微かな揺らめきがよぎる。






「…申し訳ありません




 ですが…
 …自分でも良く分からないのです」




緊張を漲らせ謝罪したイアンは
そう言うと

表情を曇らせ俯いた。




「報告すべき事項だと分かってはいました


 何故報告しなかったのか

 それは…自分にも理解出来ないのです」




そう言うと唇を引き結び押し黙る。




…彼女の言葉に嘘は無かった。


元来嘘が付けない性質の彼女は

藍染を欺く技術など
到底持ち合わせていない。

それは藍染も十分に理解していた。




しかし


だからこその
無意識な裏切りを感じ取った藍染は

静かに微笑んだ。




「そうか


 …ならばそこの二人に滅えてもらおうか」


「!!?」




藍染の突然の宣告に
目を見開いたイアンは

勢い良く顔を上げ藍染を見る。




目の前の男の言葉遣いも物腰も
何一つ変わってはいないのに

先程までとは打って変わった
寒々しい笑みが自分に向けられ

思わずゾクリと悪寒が走る。




「な…何故ですか?」




震える声で問うが

藍染は何も答えず
少女の傍らの二人へと視線を移す。




「…っ…や…止めて下さい!!



 お願いします
 何でもしますから…っ」




藍染の言葉が
決して冗談では無い事を悟ったイアンは

咄嗟に立ち上がり二人を庇うように前に出た。




「…何でも?


 それは子供の約束事だよ
 イアン」




視界を遮られた藍染は
排他的な笑みをフッと零す。


その妖しくも冷たい笑みを浮かべる男に

イアンは膝をつき懇願する。




「お願いです…っ

 貴方の命令にはもう二度と逆らいません

 代わりになるのであれば
 この命だって構いません



 だから…
 二人は助けて下さい…っ」




最後の方は震え、掠れた声で



それでも尚
必死に二人の命を繋ぎ止めようとするイアンに

藍染の眉間に薄く皺が寄った。




「…そうか」




考えるようなそぶりを見せた王は

一瞬の後

その姿を玉座から消した。




「!!!!」




ギインッ




「…大したものだね」


「…くっ」




イアンは

スタークに届く寸前の刃を
ギリギリで押し止めた。


見上げる男の目からは
何の感情も伝わって来ず

ぞわりと全身に鳥肌が立つ。




カタカタと


合わせた刃が
いつ崩れるともしれない力の均衡を伝える。




「…っく…う…っ」




イアンが少しずつ刃を押し返す中

フッと合わせた刃が軽くなった。
…かと思うと




藍染の不敵な笑みが

刀に映り込んだ。




「…だが

 まだまだだ」


「くぅっ!?」




グッと力を篭められ
再びイアンの顔が歪む。



すると

そんな彼女を嘲るように
藍染は刀から片手を離した。




「なっ…!!」




驚きに瞠目するイアンに
薄く笑みを零すと

ゆったりとその指先を


スタークへ 向けた。




「待…っ「破道の四  …白雷」







少女の顔が


絶望に歪んだ。












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