プリメーラ -PREMERA- | ナノ


A countdown to the parting -2- [origin] 2








イアン と

名前を付けられた時


不思議と何の違和感も無かった。





まるで 産まれた時から
それを背負っていたかのように
馴染んだその名は

容易く自分を表す言葉になった。









「…イアン」


「何?惣右介」




玉座に座る男に呼ばれ
振り向く。


すると隣に控えていたゴーグルの男が
眉をしかめた。




「…イアン

 藍染様への口の聞き方を考えろと
 言った筈だが」


「ちゃんと指令受ける時は

 藍染様、って言ってるじゃない」


「それ以外もだ」


「…要は細かいわね」




面倒臭そうに東仙を見遣ったイアンは
溜息をつく。




「良いんだよ 要」


「藍染様…しかし…」


「イアンには私が許した

 そういちいち騒ぐ事でも無いよ」




東仙を制した藍染は

東仙が渋々了承するのを確認してから
イアンに視線を戻す。




「ほ〜らね

 貴方が口を挟む事じゃないわよ」


「…あまり調子に乗るなよ」


「いやだ…

 やっすい捨て台詞」




最近イアンはこの真面目な統括官を
からかうのが好きなようだ。

東仙の眉間の皺が深まる。




「君もあまり要をいじめないでやってくれ」


「あら

 いじめてるつもりは無いんですよ?

 藍染サマ」




東仙が耐え切れなくなる前に
藍染が口を挟んだ。

イアンの瞳には
楽しそうな色が浮かんでいる。




すでに日常と化したこのやりとりを
飽きることなく二人は続けている。


まぁ東仙の場合は
飽きる飽きないという以前に

彼の従順なる忠誠心が
どうしても口を挟ませてしまうのだが。




「仕方ないわね

 藍染様に免じてこれくらいにしてあげるわ」




ふふっと微笑んだイアンは
東仙を見つめる。




この目の見えない男には

一体何が見えているのだろうか







「はぁ…全く仕方ないな」




呆れた様に溜息をつく東仙の
どこか楽しそうな様子に

ぴくりと眉を上げたイアンは目を細めた。




「あら

 何よその言い方

 要に赦される筋合いなんて
 無いんだからね」


「わかったわかった…

 藍染様の御前だぞ
 ちゃんとしろ」




詰め寄るイアンを苦笑しながら宥め
藍染の前に戻す。



なんだかんだと仲の良い二人は
今日のじゃれ合いに終止符を打つようだ。

…といってもイアンは
未だ納得していないような表情を浮かべたが

東仙が終わりだと示したので

仕方なく藍染に向き直った。




「まったくもぉ…


 それで?何でしょうか?」




二人のやり取りを笑顔で見ていた藍染は

イアンがこちらに視線を投げた事で口を開く。




「ああ。
 先日新しいコロニーが見付かってね

 すまないが見てきてくれるかい?」


「分かりました

 どちらに?」




二つ返事で答えると同時に
イアンの前に映像が映し出される。

それを確認したイアンは
微かに目をすがめる。




「ここね…

 あら。随分離れてるんですね」




「君なら向こうに着くのに
 七日とかからないだろう


 今回のコロニーの規模からすると
 最上大虚がいる可能性が高い。

 同胞と成り得るようなら共に帰還を」


「成り得なければ殲滅 ですね」




分かりました と踵を返したイアンは
扉へと向かう。




「帰ってきたらちゃんと労って下さいね

 藍染サマ」


「ああ

 最高級の紅茶を用意しておこう」


「ふふっ

 楽しみにしてます」




振り向きざまに
任務完了後のご褒美をねだるイアンに

藍染は優しく応える。



それに満足げに微笑んだイアンは

バイバイと手を振ると
その姿を消した。







「…全く二人とも甘いなァ」




市丸の間延びした声が
広い玉座の間に響く。




「…お前だってそうだろう 市丸」


「まあねぇ

 だってあの子可愛いしなぁ」




仕方ないなァと

ケラケラと笑う市丸に
東仙は顔をしかめる。




「…私は見た目では判断しない

 お前はもう少しその邪な心を正すべきだ」


「いややなぁ

 僕かて見た目だけで言うてるのと
 違いますよ」




でも可愛いのは事実ですよ




ねえ? 


と、同意を求めるように藍染を見る。




「…そうだね

 彼女は美しいよ」




フッと笑みを零した藍染は
今しがた姿を消した破面を想った。





…なんだかんだ

彼女には皆甘いのだ。




きっと彼女が帰ってきたら


現世で手に入れた
彼女のお気に入りの茶菓子と

藍染一押しの紅茶が用意されたテーブルで


三人は彼女を取り囲む。







そんな平穏な日常が


あの時は確かに存在していた。






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