プリメーラ -PREMERA- | ナノ


Is this nightmare...? 2








「………っ」




一月前には
予想もし得なかった幕引きに

イアンは茫然と
従属官が横たわっていた地面を見つめた。


頭が今の状況を把握しようとしない。




ただ掌には

まだ冷たい温もりが残り


最期の

縋るような眼差しは脳裏から離れない。




「あらら
 消えてしもた?

 こらいかんわ失敗やね」




固まったままのイアンの背後から
市丸の残念そうな声が聞こえた。




『失敗』




その瞬間


プツリと

何かの糸が千切れた。




「…ぅあっ…



 …ぁああぁあぁああああっ!!!」




断末魔にも似た叫び声をあげ

イアンを中心に風が吹き荒れる。


理性を失くしたかの如く
叫び狂った少女は


次の瞬間



砂塵から飛び出し
剣を抜いた。




「あぁああぁあああっ!!!」




ガンッ




「市…っ丸ぅ…!!!」




黒い感情が渦を巻く。



見る者全てを壊しても足りない程の
怒りを露わにしたイアンは

叫びながら市丸に迫った。




「…嫌やなァ

 そんな瞳で見つめんといてや
 照れるわ」




だが市丸は
斬り掛かってきたイアンの刃を
易々と受け止め

顔を近付けると挑発するように囁いた。


その一言に
二人を取り巻く風の激しさが増し



ギリリと

合わせた刃が擦れる。











抑え切れぬ怒りが



自分を侵蝕していく。





ふと

市丸の背後に立つスタークが視界に入った。




瞬間

呼吸を荒げ
今にも怒りに飲み込まれそうな自分を

咄嗟にイアンは抑えようとした。




内から滾るこの感情に身を委ねてしまえば

どんなに楽であるかは
彼女自身が一番分かっていたが

自分の力の強大さを理解していた彼女は

決して身を委ねる訳にはいかなかった。




モウニドト ナニモ



ウシナイタクナイ





行き場を失いつつある
感情から自身を護るためか否か

怒りを洗い流そうとするかのような
涙が溢れ出す。




肩を震わせながらも
自分を睨みつけてくるイアンに

市丸はその笑みを消すと
微かに眉根を寄せる。




「…あぁ…イヤやなぁ

 ボク君の泣き顔嫌いや」




……殺したァなる




幾許か低いトーンで囁くと

刀を滑らせた。




ギインッ




「…射殺せ」


「…!!!」




イアンの刀を弾き
切っ先を彼女に向けた。

驚き瞠目する少女に
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


時間の流れが
やけに遅くなった。






「…そこまでだよ


 ギン」




…いつの間にか

スタークの横に誰かが立っていた。








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