プリメーラ -PREMERA- | ナノ


A countdown to the parting -3- 3








しんと張り詰めた空気が

三人を包む。


視線が突き刺さるも

イアンは何も言わずに
気まずそうに視線を逸らしただけだった。

そんな彼女の代わり
…とでも言うように

市丸が口を開く。




「最初から、て言うけど



 キミの言う最初って、どこなん?」




…ピシッ  と 空気が軋む音がした。




「……どこってのはどういう事だ?」




一瞬動きを止めたスタークは
訝し気に目の前の男を眺める。




「あらら

 聞き返されてもうた」


「…どういう事だ?」




もう一度

同じ問い掛けをする。


だが目の前の男は

そんな問いは無かったかのように
笑みを浮かべただけだった。




「市丸…あんた…「後ろ。

 気をつけた方がええよ」


「!!?」




グォォオオオッ!!!








市丸を問い詰めようとした時


背後で突如

凄まじい叫び声が空間を揺らし
竜巻にも似た風が吹き荒れた。




「…なっ……!?」




驚いたスタークが振り向けば
半身を吹き飛ばされていたはずの虚が

か細くも躯を取り戻し
イアンへとその手を伸ばしていた。








「イアン!!」




咄嗟に少女の名を叫ぶ。




ガキィンッ




風が吹き荒れる中
金属がぶつかり合う。


イアンは自分に向けられた刃を
かろうじて受け止めたものの

その瞳には戸惑いと迷いが浮かんでいた。

そんな少女の隙を見逃す筈も無い虚は
ジリジリと少女を押していく。




「…何してんだ馬鹿」




スタークは呆れた様に溜息を吐き
少女の下へと足を踏み出した。



…筈だったのだが。



その足はそれ以上動くことは無く

次の瞬間

彼は地へと崩れ落ちた。




「……ッ!?ぐ…う……っ



 …なん…だ……?」




激しい動悸と頭痛に襲われ
急激に体温が低下していく。


痺れる手足に無理矢理力を加え
何とか立ち上がろうとするのだが

満足に身体を動かす事が出来ない。


霞む視界を何とか振り切ろうとする
男の後ろから市丸が声を掛けた。




「あかんあかん

 動くともっと辛なるで
 大人しくしとき」



「市…っ……丸……

 てめえ……っ」


「大丈夫や
 死ぬ薬とちゃうから」




そう言いながら

市丸は興味なさげに視線を外すと
前を向きイアンを眺める。






急激な体温の低下


全身の血液が沸騰しているような熱さ


朦朧とする意識


手足が切り離されたような感覚




…科学者の仕業か。




スタークは
忌ま忌ましげに舌打ちをすると


幾度か身体を捩り

震える足に力を込め
ゆっくりと立ち上がった。




「…立てるとは思わんかったわ」




ほんの僅か

心底驚いた表情を見せた市丸は

スタークの様子に数回手を叩いた。




「…一応#1貰ってるからな」




おざなりな拍手をする市丸に
皮肉げな笑みを浮かべた男は

ふらつく自身を支えると
未だ刃を交えたままの
イアンに目を向けた。




これまで



動かない身体を

こんなに歯痒く思ったことは無い。




「…くそっ



 ……!!!イアン!!

 何やってんだテメエは!!
 死ぬ気か!?」




今にも押し斬られそうな姿を目にし
吠えるように叫ぶ。


と、

イアンは少しだけ顔をこちらに向けた。




「スターク…様…」




荒い呼吸で立ち尽くすスタークは
今にも倒れそうだったが

歯を食いしばりイアンを睨む。

だがイアンは
スタークの様子に気付かず

顔を歪め男から背けた。





-----『お前は


 アイツを斬れるのか?』-----




ほんの数分前に言われた

言葉がよぎる。


彼女は混乱し

自分が何をすべきなのかさえ
分からなくなっていた。

いや。

正確に言えば最善の道は分かり切っていた。

しかし

彼女はどうしてもその選択が出来なかった。




「…スターク様……」




カタカタと身体を
小刻みに揺らしたイアンは
俯き呟いた。




「どうやら私には…



 斬れそうにありません」




申し訳ありません


と呟く声が

やけに耳に響いた。









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