プリメーラ -PREMERA- | ナノ


A countdown to the parting -3- 2








瞬きすら追い付けない程
一瞬の事だった。







「スターク様!!」




イアンの叫び声が響き
市丸は刀を引き抜く。

独特の引っ掛かるような、重みを感じながら抜いた刃からは

今自分が刺した者の血が滴っていた。

それをチラリと横目で確認した市丸は
登場した時となんら変わりの無い笑みを貼り付け
少し距離が開いたままの少女へと声を掛けた。




「ご機嫌いかが?


 イアンチャン」


「…………!!!」




イアンは微かに身体を強張らせ
ピリッと空気が張り詰める。

それを感じた市丸は更に口の端を持ち上げた。




「嫌やなァ

 そんなに怒らんといてエな」




何が面白いのかケラケラと笑う市丸に
イアンの眉間には微かに皺が寄る。




「…怒ってなどおりません」


「そうなん?

 それならええんやけど」




キミに嫌われたらボク悲しくて泣いてまうわ


と泣き真似をした市丸は
ふと思い付いたように言葉を続ける。




「でも意外やったわ

 まさかキミが藍染さん裏切るなんてなァ」




言いながら笑顔を向けられ

イアンの表情に険しさが宿る。


ドクン と一つ心臓が鳴った。




「!!…裏切ってなど……っ」




咄嗟に噛み付くように声を上げた。


自分は裏切ったつもりは無い。

…だが

結果的にはそうなるのだろうか

そう思った時
自然と言葉が出てこなくなった。


そんなイアンの心中を
見透かしているかのように市丸は笑う。




「おや ちゃうの?

 ここに居るって事はそうゆう事やろ?



 …少なくとも藍染さんは
 そう思っとるみたいやけど?」




付け足すように呟かれた言葉に
イアンは目を見開き

市丸は何事も無いような笑顔を向けた。

その寒々しい笑みに
イアンの背筋は凍り付き動けなくなる。




だがそれきり市丸は何も言わず

辺りはしんと静まり返った。








「どういう事だ…?」




静寂を打ち破るかのように

静かな低い声がイアンの耳に届く。

ハッと身じろいだイアンが視線を動かせば

スタークと目が合った。




「スターク…様…」


「やぁ

 外してもうたか」




苦しげではあるが
ハッキリと意識を保っているスタークに

さほど驚いた様子も無い市丸は
わざとらしく両手を挙げた。




「よく言うぜ…
 自分で外したんだろ」




ギリギリ心臓を外された胸を押さえ
スタークは振り向き市丸を睨む。




「ひゃあ恐い恐い

 堪忍してや
 ボクやりたくてやったんと違ゃうで?」




肩を竦める市丸は眉を下げ
降参とでも言うように手を振った。




「…そのわりには随分楽しそうだけどな」




スタークの言葉に一瞬動きを止めた市丸は
ニィッと口の端を上げた。

それを見たスタークは溜息を一つつき
その姿を消し二人から距離を取る。




「…説明してもらおうか」


「何を?」




スタークに睨まれるのを気にも止めず
市丸ははぐらかすように問い掛けた。




「…最初から だ」




そう言いながら
スタークはゆっくりとイアンに視線を移す。


自分を映し出す彼の瞳に
優しさがもう宿っていない事に

なぜかイアンは無性に
泣きそうになった。











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