誰よりもかっこいいキミに捧げたい言葉
*本誌のネタバレ注意
はじめくんが落ちたと知ったのは、速報が流れた時だ。
私の頭は真っ白になって、気がついたら救護室で休んでいる彼の元へと駆け出していた。
本当に、良く行かせてくれたなって思う。
救護室に着くと、彼はベッドで寝ていた。その姿に少なからずホッとした。
『はじめくん……』
原因は言わずもがな、足だろう。かなりの無茶をしたと聞いている。
『お疲れ様、はじめくん』
ポツリと呟くと、ピクッと動いた彼は目を覚ました。
「…………」
『…………』
「……湊……?」
『!……はじめくん、良かったー……』
彼が目を覚ましたからなのか、名前を呼ばれたからなのか、私の瞳には涙が滲んでくる。
「すまない、湊」
『?』
「ゴール、出来なかった」
『なんで謝るの?かっこよかったよ』
「そうか」
『だって、1日目はゴールスプリントで闘って、2日目は鏑木くんを迎えに行った。……たくさん活躍してたじゃん』
「……そうか」
ぱたぱたと瞳から流れ落ちる涙をそのままに、笑いかけると、彼は少しだけホッとしたように笑った。
「ゴールしたかった、けど、箱根学園に追い付くにはオレは全開で走るしかなかった……いや、そうしたかったんだ」
自分を救ってくれた手嶋くんに恩返しをしたくて、ずっと感謝をしていて、最期まで全開で走らせてくれた手嶋くんの気持ちを受け取って……走ったのだと、はじめくんはポツリポツリと話してくれる。
それでも、ゴールしたかったのだと言う彼に、私は何を言えるのだろうか。
考えても出てこない。
けど、はじめくんは言葉の本質を見抜くのが得意だからきっと伝わるって信じて、静かに口を開いた。
『私は、レースを走ってないから月並みなことしか言えないけど……今、レースでみんなが闘ってる。はじめくんのその、ゴールにかける想いを背負って、鏑木くんも、手嶋くんも、みんなも』
「湊は、総北が勝つと思うか?」
『当たり前だよ!だって……っ』
一度は止まった涙がまた溢れてくる。
一年生の時、二人は決して期待されてなかった。
二年生の時、今の二年生達と闘って、それでも届かなかった。
IHの調整をみんながしている間、手嶋くんとはじめくんは、ひたすら努力を積み重ねていた。そしてはじめくんは、スプリンターとして目覚めた。
三年生になって、責任や重圧を背負いながら、毎日遅くまで部活に取り組んでいた。
私は、それをずっと見ていたから。
『二人ががんばって作り上げた総北の自転車競技部は、みんな努力の天才で……っすごく強いから……!私は、総北が勝つって信じてるよ……!』
「……そうだな。ありがとう、湊」
レースで落ちて行く人の意志を継ぐって、とても重いものなんだと思う。
けど落ちた人も、託すことしか出来ない歯がゆさを抱えてるのかもしれない。
受け継ぐ人、受け継がれる人。それぞれの想いを背負って、ひたすらペダルを回して来たのだろう。そして今、レースで闘ってるみんなも、はじめくんの"ゴールしたかった"想いを受け継いでペダルを回して行くのだろう。
そう考えると、すごくかっこいいな、ロードレースって。
「湊、ありがとう」
『お疲れ様、はじめくん』
「ああ。……湊、もう少し、そばにいてくれるか?」
『!!!……もちろん』
今はただ、彼の要望を聞き入れて、話相手になる。それだけでいいのかなって。
マネージャーとしては、失格だろうけどね。
(そういえば膝!!!はじめくん無理しすぎだから!)
(平気だ)
(平気じゃないでしょ!だからテーピングがすっからかんになってたんでしょ!私怒ってるんだからね!?)
(…………)
(本当に、心配させないでよ……)
(……すまない)
(本当にそう思ってるなら、しばらく無理は禁止だから)
(…………善処する)
++++++++++
こういう、心配してくれる存在がいてくれたらとてもおいしい(私が)
けど公式ではその役割を担うのは手嶋さん。それはそれでとても胸キュンですな(私が)
not 付き合ってる。けど、両片想い的な。
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