お菓子交換大作戦
オレの気になる子は、鳴子のクラスメイトだ。
「よ、湊ちゃん」
『おはようございます手嶋先輩』
「そこは名前て呼ぶとこだろー」
『えー……やっぱり先輩チャラい…』
「だからチャラくねーって」
以前、湊ちゃんのクラスが調理実習の時にお菓子をもらってから、オレ達の関わりは始まった。
『あ、そうだ。どうぞ、これ』
「お!今日は何?」
『ブラウニーです』
「いいね、昼休みに頂くよ」
『渡してる私が言うのはどうかと思うんですけど、手嶋先輩太りますよ……』
「いーんだよ、動くから!
オレからも湊ちゃんに」
『わー!ありがとうございます!!手嶋さんのお菓子大好きです』
「っ!そりゃ嬉しいな」
そして、そのあと、頻度は多くはないがお菓子交換をしている。
表現は悪いが、いわゆる餌付けってやつだ。
「あー!また手嶋さんワイのクラスに来てはるんすか!寺崎さんにちょっかいかけてはるんすか!!」
「たまたま会っただけだよ。な、湊ちゃん」
『はい。
…鳴子くんおはよう!』
「おはようさん。ホンマ、手嶋さんは油断ならんわ…」
「はいはい。じゃ、またあとでな、鳴子。湊ちゃんもまた」
そしてこの、お菓子交換は、鳴子には内緒だ。
別に、隠すことではないと思う。
けど、今はまだ秘密だ。
***
『わ。青八木先輩も手嶋先輩も、こんな時間までお疲れ様です』
帰り道。青八木と帰っていると、湊ちゃんとばったり会った。
「湊ちゃん」
「湊ちゃんこそ、こんな時間までどうしたんだ?」
『料理部、今日は長引いたんですよね』
「純太」
「ん、おお。またな、青八木」
「(コクリ)!」
『?』
青八木との会話に湊ちゃんが首をかしげている。当たり前か。
「送るよ」
『や、大丈夫ですよ!?』
「いーからいーから」
『……ありがとうございます』
半ば強引に送る形に持っていったが……さっき青八木にがんばれと言われたことだし、やるしかねーな。
『ええーと、今日のお菓子、すごくおいしかったです…!』
「湊ちゃんのブラウニーもティータイムにはぴったりだったよ」
『良かったです!』
「なー、湊ちゃん」
『はい?』
あと一言。がんばれ、純太。
「良かったら、連絡先交換しねー?」
『え、あ!はい?』
「お菓子のリクエストとかさ、気軽に送れるし。あ。今度時間あればカフェ行こうぜ。美味い店があるんだ」
『えーと、私、は全然いいんですけど……手嶋先輩お忙しいですよね?』
「こういう帰り道でもいいしさ。ダメか?」
『いえ!とんでもない!!』
「はは、じゃ、決まりだな」
『え、あ、う……やっぱり手嶋先輩……チャラいです』
チャラいって言われても、気になる子の連絡先を手に入れられるなら、気にならねーよ。
「とりあえず、L●NEだと消されたら終わりだから、電話番号とメールアドレスも教えてくれ」
『へ』
「オレ、諦めがわりーんだわ」
『え?え…?』
「なんてな」
『〜〜〜っ』
オレの気になる子は、鳴子のクラスメイトだ。そして、お菓子交換をしている子でもある。
でも、この関係が変わるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。
(あ、そうだ。"手嶋先輩"呼び禁止な)
(えぇ?)
(名前で呼んでくれると嬉しいんだけど)
(じ、純太さん??)
(さん?まーそれでいいか、今は)
(ううう)
(ホラ、オレのこと呼んでみ?)
(じ、純太さん)
(良くできました)
((たすけてなるこくんんんんん))
(寺崎さんが、手嶋さんの毒牙にかかっとる…)
(今行くと多分明日の手嶋さんが怖いな)
(う、嬉しそうだもんね!)
(あの人ホンマに策士やー!!)
目撃した信号機組。
(いけるぞ純太……!)
そして見守っている相棒。
+++++++
貰われていったお菓子の続きみたいな話。
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