弱虫ペダル | ナノ


  手嶋妹と青八木くんの願い


いつだって、応援してるよ。
一番になれますようにって。








『え。はじめくんが一位?』
「そ。すげーだろ。オレ達の力で出し抜けたんだ」
『それは……すごいけど……純兄は?』
「……いやあ……オレ苦手なんだよな、ゴール前ってさ」
『ふーん?』



高校に入って、もう一度ロードに乗るようになった兄は、相棒である青八木一くんの話をよくする。
今回もまた、青八木くんを表彰台に立てることが出来た、と自分のことのように話すのだ。
きっとそれは本心で。
けど、いつだって、どんな時だって自分より他人を尊重してしまう兄に、いつか表彰台に立ってほしいと思うのは、妹として当然のことだと思う。








***


私も高校2年生になった。
純兄は最終学年。話によると、主将に選ばれたとかで、前よりずっと帰る時間が遅くなった。


(たまには休んでほしいんだけどな)


とは言っても、私と同学年の小野田坂道くんが去年のIHで優勝して、他の人達も、自分よりずっとずっとうまくて。
きっと休んでいられないと思っているんだろう。




考えながら帰路についていると、目の端に金色のような、薄いブラウンのような、色がうつった。


純兄の相棒だ。



『あれ、はじめくん?こんにちは』
「…………」


コクッと頷くのは、きっと彼の挨拶だ。
よく話す兄の相棒の彼は、逆にあまり話さない。
だからこそ噛み合っているんだろうとも思う。


兄が近くにいるわけでもなさそうだし、どうしたんだろうか。



「純太ならまだ走ってる」
『ですよね』
「オレは湊ちゃんに頼みがあって来た」
『頼み?』
「…………IHを、見に来てほしい」



「今年だけでいいからマネージャーになって純太の力になってやってくれ」、なんてはじめくんはいつもの力強い目で、私にそう言ったのだ。


それだけを言いにわざわざ家まで来たのだろうか。はじめくんはやっぱり真面目な人なんだなあ。
純兄が嬉しそうに話すの、わかる気がする。




「…………オレは、純太にたくさん救われた」

ポツリ、ポツリとはじめくんは話していく。


「表彰台に立つのはオレだけで、そんなオレを見て、純太はいつも笑うんだ」


それは、紛れもない、はじめくんの本音で。まだ純兄にも伝えてないことなのかもしれない。


「けど、オレはいつだって笑って、いつだってたくさん努力をしてる純太にこそ、表彰台に立ってほしい……!」
『純兄は、はじめくんを表彰台に送れたこと、いつも嬉しそうに話してましたよ』
「!」
『……けど、そうですね。……妹として兄が表彰台に立つ姿はやっぱり見たいです』
「……すまない」
『なんではじめくんが謝るんですか』


すごく不器用で、言葉をうまく伝えられないはじめくん。器用だけど、器用すぎてバカになりきれない純兄。
この2人だからこそ、私には見えない絆があるんだろうと思う。



『わかりました。でもいいんですか?純兄びっくりしますよ』
「……大丈夫だ。純太もきっと嬉しい」
『ふふ、純兄と仲良くなったのがはじめくんで良かったです』
「…………」
『じゃあ、早速明日うかがいますね』
「ああ」



私の言葉に、少し嬉しそうに頷いた彼は、ロードにまたがってあっという間に去っていった。





強豪、総北高校自転車競技部。
華々しい優勝を飾った高校の主将と副主将は、自分たちの成績は、そこまで華々しいものではなくて。


(でも、そんなふたりだからこそ、わかることもあるのかも。きっと、いいチームなんだろうな)



"純太に表彰台に立ってほしい"







私も、純兄に一番になってほしい。




近くで応援できる権利を与えてくれたはじめくんと、誰よりも応援している兄のために、私も出来ることを頑張ろうと決意した。








(こんにちはー!主将)
(湊!?)
(入部届出しに来ましたー、あ。はじ……じゃなかった青八木先輩の許可はいただいてまーす)
(青八木!?)
(嬉しいだろう?)
(いや、そりゃそーだけどよ)
(改めまして手嶋湊です!よろしくお願いします!)
(………………なーんかおかしいと思ったんだよな、昨日途中で青八木いねーし)
(湊ちゃんに頼んだのはオレだ)
(……ありがとな、青八木)
(!)


(あれっ湊やないかー)
(やほー鳴子!)
(どないしたん?自転車競技部入るんか?)
(そーだけど)
(ほ、ホンマかー!?!?)
(湊さんが入ってくれるなんて、力強いね!)
(そうだな)


((……妹は渡さねー))
(純太……)




ちゃんと見届けるよ、3年間の集大成。
今度はもっと近くで。









+++++
T2の絆、というか青八木くんの思いが胸アツ過ぎて出来たのが夢になりきれない夢というか、、
純太の妹というポジションおいしくないですか!!!
そしてなんだかんだ妹ちゃんは青八木くんと仲良くなっていくのだ。

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