弱虫ペダル | ナノ


  とある休日のティータイム


「うわ!はじめ!小麦粉はちゃんと量って!?」
「だいたいはかった」
「だいたいじゃなくて!……って、手嶋メレンゲしすぎ!もう十分だから!硬い生地になっちゃう」
「メレンゲって楽しくなるんだよな」


総北高校自転車競技部の、とある貴重な休みの日。
私は手嶋ズホームで、手嶋とはじめと、お菓子作りをしていた。


なぜそんなことになったかと言うと、時は数日前に遡る。



***


「なー湊、今週末の部活休みの予定ある?」


昼休み、われらが主将に用事があって行くと、いつものごとく、手嶋とはじめが話していた。
そこに歩み寄ると、突然今週末の予定について聞かれたのだ。


「湊に予定があるわけない」
「はじめはほんっとに失礼なこと言うね!」
「予定ないだろ?」
「ないけどさ!」

「何するつもりだったんだ?」
「……寝て過ごすつもりだった」
「それは……すげーな」


幼なじみであるはじめは私の行動なんてお見通しって言うように失礼なことを宣ったけど、手嶋は苦笑しながらもどうするつもりだったのかと聞いてきた。
まー結局さらに苦笑させたけど。


「じゃ、お菓子作らねぇ?
オレん家で」
「ほ?」
「純太のお菓子はうまい」
「いや手嶋の作るものはなんだって美味しいのは知ってるけど」
「そりゃ嬉しいな。
じゃ、決まりだな!ちょっと凝ったヤツつくろーぜ!」
「う、……わかった」


ニカッて笑われたら、断れないじゃん?
手嶋の笑顔ってなんであんなにかわいいんだろう本当に反則だと思う。

「湊」
「はじめ、ありがと」


そんなわけで現在に至る。


***


「湊、生地出来たか?」
「うん。今焼いてる」
「オーケー。青八木は?」
「ちゃんと切った」
「おーどれどれ。…………すげー切り方したな」
「これ以上はどうしよもない」
「まーはじめはあんまり包丁使わないしね。指切らなくて良かったよ。こういうのは気持ちが大事だし」
「おっ!湊良いこと言うな〜」
「湊にフォローされるとは思わなかった」
「はじめひっど!私だってフォローくらいしますよーだ」


二人とお菓子を作る時間はとても賑やかだ。
前にも手嶋の家でお菓子作りをした時、やっぱりこんな感じだった気がする。

まぁ、二人も忙しいし、こういう時間は久しぶりなのだけど。


「凝ったものってまさかの洋梨タルトで驚いた」
「洋梨うまいだろ?」
「そうだけど……
私ビスキュイ生地絞るの苦手だから手嶋よろしく」
「おい。まーいいけどよ。青八木、ババロアは?」
「多分大丈夫だ」
「はじめの多分って言葉怖い……」


それにしても手嶋は女子力の固まりだ。
数日前、何を作ろうかって話の時に「シャルロット オ ポワールつくろーぜ!」って言われて私もはじめもクエスチョンだった。
そして少しでもうまく作れるように家で調べて練習したのは私だけの秘密だ。


「純太。湊は純太を女子力の固まりだと思ってる」
「勝手に人の心を読むな」
「女子力の固まりはうれしくねーな」


手嶋は少し困ったように笑ってるけど、本当に女子より女子力高いと思う。
今手嶋が絞ってる生地はうまくいかなくてすべてドロドロになったし。


「純太は湊に褒められたくて練習してた」
「おいバラすな青八木」
「あはは」


どうやら手嶋も練習していたようだ。
そんなことしなくてもきっと上手に出来るだろうし、練習で疲れてるだろうに……

なんだか嬉しかったから、少しくらいはいつも思ってることを言うのもいいと思って口を開いた。


「私はいつも手嶋すごいなって思ってるよ」
「湊はいつも純太の心配をしてる」
「マジ?すげー嬉しい」
「!(……う、わ!)」


はじめの余計な一言に猛烈に恥ずかしくなってたのにさらに手嶋の笑顔で追い討ちを掛けられて……私を悶えさせる気が!なんて心の中で思わず叫ぶ。


タイミングがいいのか悪いのか、オーブンがチーン!と鳴った。


「あ!生地出してくる!」


良かった。変なこと口走らなくて。
なんて胸を撫で下ろしつつ生地を出す。


「湊?どうだ?焼けたか?」
「うん、焼けてる」
「どれどれ……おーうまく焼けてんじゃん」
「やった!」
「よし!じゃあ仕上げようぜ」


心なしか二人はとても楽しそうだ。
もちろん私も楽しいけれど。
普段、頑張りすぎなくらいだから、少しでも休息になればな、なんて思う。


私が考え事をしてる間にもくもくと手嶋は仕上げにかかっていた。


「青八木!ちょっと勢いつけすぎだって!ババロアはもう少しゆっくりいれろ」
「食べられるから大丈夫だ」
「……そだな」


ぶっちゃけはじめはお菓子づくりに向いてないな。
そんな2人を眺めながら、茶葉の入ったティーポットに、沸かしておいたお湯を注ぐ。

手嶋が紅茶好きだから、紅茶の淹れ方はマネージャー業の一環として身に付けた。間違えると手嶋がうるさくなるので絶対間違えない。


「もうできるー?」
「おー」


生返事が返ってきたので集中してるんだろう。
私の方も完成だ。手嶋の大好きなミルクティー。


「完成だ!」


パチパチパチ。
私とはじめは思わず無言で拍手した。
そうすると手嶋はまた笑うのだ。

「なんだそれ」


と言って。







「おいしー!」
「……」
「湊、紅茶淹れるのうまくなったよな」
「誰かさんのおかげでね!」
「はは、誰だろうな」


モグモグモグモグとひたすら食べるはじめ。何故かひとりティータイムを決め込む手嶋。それを眺めながら、ケーキに口をつける私。いつもの光景だ。


多分このあと2人とこうやって遊べるのはIH終わったあと…………
それもあるかどうかわからない。
けど私は、ひたすら努力を続けて手に入れた主将と、副主将という立場の二人を応援するだけだ。



「湊、いつもありがとな」
「なに突然」
「一年の時からずっと、湊がいてくれて助かってるよ」


それは私もだ。
二人が頑張る姿に、たくさん励まされてきた。


「手嶋、はじめ」


もうすぐ1000km合宿、そしてIHだ。
…………手嶋は、自分に厳しいから、おそらくIH出場のメンバーに自分を入れてないはず。
それでも、私は、2人に出てほしいから。


「小野田くん達はもちろんだけど……IH、2人を応援してるから。
2人が活躍しないんだったら……今年、応援しないから」


(だから勝って)


「はは、そりゃ、ハードなオーダーだな」
「湊だからな」
「……がんばるよ。最初で最後のIHだからな」


「純太は1000km合宿が終わったら湊に言いたいことがあるらしい」
「青八木!わざとだろお前」
「…………」
「キョトンとしてもお見通しだ」


まるでコントのようにじゃれあう2人に、思わず笑ってしまう。


「うん、待ってる。絶対完走してね」
「ああ、湊」
「当たり前だろ」


2人の目を見て、がんばっていた2人が最後のIHで力を出せるように、私もがんばろうと改めて思った。




季節は、もうすぐ夏に差し掛かろうとしている。そんなある日の休日の話。






(手嶋さん!昨日湊さんと青八木さんとお菓子作りしとったってホンマですか!?)
(おー。)
(うわ、めっちゃうらやましいです。なんで仲間に入れてくれんかったんすか!)
(そりゃあれだ、同学年同士で話したいこともあるんだよ)
(手嶋さんて湊さんと仲良いですよね)
(普通だろ?な、青八木)
(…………。湊は純太のだからな)
(((!?)))
(青八木!?)

(おはようございまーす!……?なにしてんの?)
(な、なんでもねーよ。な、青八木!)
(ああ。純太)
(?)





+++++++
T2夢!限りなく純太寄り。両片思いのふたりとそれをひたすら応援する幼なじみ青八木くん。

Twitterでいろいろお話してくれるいーちゃんに捧げます!

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