金色の猫足が付いた白いバスタブは乳白色の湯で満たされている。
アンティークのバスタブは貴重なもので、僕がわざわざ彼女のために探し、プレゼントしたものだ。


天井を仰ぐように白い首筋を反らしていた彼女はちゃぷんと湯を揺らし、こちらに視線を向けた。



「レディのバスタイムを邪魔するなんて、お行儀が悪いんじゃなくって?」



少し不機嫌そうな声が広いバスルームに反響するが、気にしない。
キミがこのあと歓喜の声を上げると確信しているからだ。



「ごめんよ、香苗。これを早くキミに見せたくて」


「…まあ!これを、わたくしのために?」



彼女に手渡したのは、熟れたざくろだった。
皮がぱっくりと割れ、赤黒い実が露出したグロテスクなこの果実は彼女のお気に入りだ。
このご時世、本物の果実…それもざくろという珍しいものは流通しておらず、簡単に手に入るような代物ではない。
何故苦心してまでこれを手に入れたのか。
それもひとえに彼女の喜ぶ顔を見たいからであり、淫靡な果実を貪る姿は実に妖艶で、その様子は何度見ても飽きないくらいに僕の心を揺さぶるのだ。



「機嫌は直してくれたかな?」


「ええ、もちろん。今日はとっても良い日だわ」




夢見心地で「素敵…」と、うっとり呟きながら、彼女はざくろの実を一粒摘まむとその艶やかな唇に押し付ける。
ぷちっと小さな音を立てて実は潰れ、唇を赤く濡らしていく。



「ざくろはね、血の味がするのよ」



彼女は熱に浮かされたように呟くと、もう一粒、もう一粒と、ゆっくりと口に果実を含んでいく。



「それは興味深いな」


「あら、ではお試しください」



綺麗な弧を描いた赤く濡れた艶やかな唇が差し出される。
瑞々しい香りに誘われるように、僕はその唇を貪った。

甘酸っぱく、少し苦みを含んだその味は、何度も嗅いだ血の香りとは似ても似つかない。
それでもこのグロテスクな赤黒い実は確かに人間の血肉を想像させる。

ざくろの果汁を含んだ赤い唾液が彼女の口元から胸元へと伝い、乳白色の湯にぽたりと垂れた。



「はぁっ……」


「キミの血は随分と甘いんだね」



悩ましげな吐息が漏れる熟れた唇を優しく拭ってやると、彼女は欲に濡れた瞳で僕を見つめる。



「……聖護くんはご存じかしら?お風呂というのはね、服を脱いで入るものなのよ」



そう言って彼女は僕のシャツのボタンに、赤く濡れた白い指を這わせた。

(その赤い果実に溺れてしまいたい)

2013/10/30


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