夏。茹だるような暑さ。16歳という年齢。

自分が世界の中心で、やろうと思えばなんでもできてしまうような気がする。そんな年頃。

若さとは、時に自分でも思いも寄らない行動を引き起こす。



それが、私が今制服のままプールに浮かんでいる理由。







「ちょっ、キミ、なにしてんの!?」


「……………暑かったから、つい?」


「なんで疑問形!?」



プールにダイブした私を、困惑しながら見つめる男の子。
ネクタイの色からして、3年生。
身長高いなぁ。なんだか困った顔してる。
自分でもどうしたら良いのか分からないけど、男の子もどうしたら良いのか考えてるようだった。
水の中キモチイし、もうちょっとこのままでいたいけど、この人の良さそうな男の子を困らせたままにするのはなんだか心が痛む。…気がする。

力を抜いて空を見ながらゆらゆら浮いていたが、重心を足に移し、プールの底に足を着いた。
水がスカートの中に入り込んでふわっと裾が広がるのを手で押さえ、改めて男の子をじっと見る。

あ…この人知ってる。同じクラスのみっちゃんがかっこいいって言ってた橘なんとか先輩。



「……水、好きなの?」


「そうかも」


「俺の幼馴染と一緒だ」


「?」



ちょっと嬉しそうな顔をした橘なんとか先輩は、そのたくましい腕を伸ばしてきた。
掴まれってこと、だよね。
私は素直に橘なんとか先輩の手を掴むとぐいっと引き上げられた。

目の前に立つと、思っていた以上に身長が高い。



「ケガしてない?」


「うん、大丈夫」



良かったぁ、とはにかむ橘なんとか先輩の顔を見上げると、ちょうど太陽の光が目に入った。
夏の太陽って、眩しい。
橘なんとか先輩の笑顔も、眩しい。



「ねえ、橘なんとか先輩は、どうしてプールにいるの?」


「…俺のこと知ってたんだ?」


「うん、かっこいいってみんな噂してるから」



そう事実を述べると、彼は大袈裟に驚き、恥ずかしそうに頭を掻いた。
そんな姿を見て、ああ、良い人なんだなぁと素直に思った。



「……えっと、篠井…さん」


「…?どうして私の名前、」


「……前から、可愛いなって思ってたから」


「…え?」


「なんだか放っておけないし、予想外のことをして面白いし、思ってた以上にー…」


「えーと…?」



衝撃的な発言が飛び出す橘なんとか先輩の口を見つめる。
でもそれ以上の言葉は続かず、彼は「あ、ちょっと待って!タオル持ってくる!」と言って更衣室の方へ走って行ってしまった。


ぽたり、とコンクリートの上に水が落ちた。
髪から、ブラウスから、スカートから、ぽたり…ぽたりと次から次へと水が滴る。
あ、しまった。明日も学校なのに、替えのスカートないや。
でもこんなに暑いんだから、直ぐに乾くかな。

そんなことを考えながら、スカートの裾をぎゅうっと絞る。



「女の子なんだから、そういうことは誰も見てないところでして…!」



その様子を見ていたのか、橘なんとか先輩は慌てながら私の肩に大きなバスタオルをかけてくれた。



「ありがとう」


「……どういたしまして。ところで、そんな格好で帰るの?」


「うーん…さすがにそれは……もう少しここで乾かしてから帰る」


「そっか。じゃあ付き合うよ」



予想外の言葉に、思わず目を瞬かせて橘なんとか先輩の顔を見つめる。
この人は何を考えているんだろう。



「どうして?」


「もうちょっと篠井さんと話してみたくて」


「ふーん……変なの」


「君に言われたくない!」



変?私って変なのかな。
違う、私だけじゃない。
この橘なんとか先輩も、なんだか変だし、相当物好き。

やっぱり年齢かな。
この高校生っていう時期のせいなのかな、きっと。


そう、
若さとは、時に自分でも思いも寄らない行動を引き起こす。


私は橘なんとか先輩の手を引っ張り、バランスを崩した先輩と目線を合わせた。

(ねぇ先輩、下の名前、教えて?)

2014/8/3


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