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「まあそれは二人を救出した後に鬼達を締め上げればわかることでしょう。それよりも……」
「あの男が何者かってことだよね」
太子達を殺そうとしたあの男。
「角……あったよね」
「ありましたね」
「私は痛すぎてそれどころじゃなかったな」
「肌も赤かったし…あいつも鬼なんでしょうか?」
「人の形をした鬼……か」
男の姿を思い出して「ひゃぁ〜」と情けない声を上げる芭蕉。
「何情けない声を出してるんですか芭蕉さん。彼は僕達の事を知っているみたいですよ」
「えっ!なんで!?」
「知りません。でも彼の心中からは疑問や驚きといったものは感じ取れませんでした。僕達が鬼を倒したのも想定内だったようです」
曽良の言葉に今度は妹子が声を上げた。
「曽良君人の心が読めるの!?」
「僕の能力【心理解析】は相手の思考や感情を読み取ることが出来ます。ですが身体に負荷が掛かるため、普段は使用していませんから安心してください」
言葉に若干の棘を含ませ、妹子から顔を背ける曽良。昔、この能力のことで人から蔑まれた過去を持つ曽良にとって、妹子の驚きは曽良に向けられた畏怖のように感じ取れたのだろう。
しかし次の言葉で、曽良は強制的に妹子の方へ顔を向けざるを得なくなった。
「いいなぁ!戦闘ですっごく役に立つんじゃない?未来予知的なことも出来そうだよね!」
そう言った妹子の心からは、畏怖や恐怖といったものは何一つ感じ取れなかった。純粋な尊敬と好奇心。それだけだった。
「相手の思考回路を読んで先回りすることも出来そうだし……太子が肉弾戦なら曽良君は心理戦だね、それも一方的な」
「ちょっと妹子。それじゃあ私がただの筋肉バカみたいになるじゃないか!妹子だって馬鹿力だろー!」
「太子、それは褒めてますよ」
「えっ!?そうなの?」
「はい。少なくとも僕にとって馬鹿力は褒め言葉です」
「ちくしょー!妹子のバーカ!じゃがいも!さつまいも!」
「滅びろ!」
「ゴフゥ!」
人を褒めているかと思いきや、小学生のようなやりとりを始める二人に曽良は呆れる。いつの間にか隣に移動していた芭蕉が曽良に笑いかけた。
「ね?妹子君や太子君みたいに、曽良君の能力を純粋に認めてくれる人だっているんだよ」
そう言う芭蕉が一瞬だけ本当に師匠のように見えてしまい、曽良は思わず目を逸らした。
「……人の心を読むことは、少しであろうと精神や身体に負荷をかけます。未来予知のように自由自在に操ることは難しい」
でも、と曽良は少し口ごもると、芭蕉から目を逸らしたまま小さな声で言った。
「褒められるのも、悪くないですね」
背を向けた曽良の耳が真っ赤になっているのに気づいた芭蕉が、曽良が照れていると理解するまであと十秒。
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