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「あ……太子。前、見て下さい」
「ん?なんだ?可愛い女の子でもいたか?」
「いませんよ。また鬼です。ここ最近連日ですね」
妹子が指差したのは確かに何度も見たことがある鬼の集団だった。二人の進路を阻むように一直線に此方へ向かってきている。
「ほんとだ。私のファンなのかな?」
「太子はヤンデレなファンが欲しいんですか?」
「いーや、ぜーんぜん」
即答する太子。鬼達はもう目前まで迫ってきている。
「僕が先に仕掛けますから、ぶっ倒れたのを確認したら動いて下さい」
「はいよー。まったく疲れるなぁ」
「先に能力発動させていて下さいね」
「わかってるようるさいなぁ…」
拗ねたように口を尖らせながら太子は自身の能力、【身体強化】を発動させる。太子が緑色の光に包まれたのを確認した妹子は、目の前の鬼の大群を見据える。
「いつもより多いな……。魔力がなくなったらどうしてくれるんだよ。ま、そう簡単にはなくならないと思うけど」
行きますよ、と一声かけると妹子は群衆の方へ両手を向けた。
「【タイダルウェイブ】!」
そう叫ぶと同時に妹子の前に魔法陣が現れ、大量の水が噴出する。水は巨大な津波のように形を変えると、大量の鬼達を呑み込んでいった。
これでかなりの鬼が倒れた。それを見た太子が刀を抜いて大群の中へと突っ込んで行く。
「よぉーし殺っちゃうぞー☆」
「気持ち悪い言い方すんな!」
【身体強化】で全体的な能力が強化されているため、太子の攻撃は掠っただけでかなりの深手となる。
「【大剣の舞】!」
太子が大きく刀を振るうと、刀身に当たった敵はもちろん、刀身から1メートルほど離れていたはずの敵までもが真っ二つに寸断された。
「プリンっぽい」
「やめてください、しばらくプリン食べられなくなるじゃないですか」
キュッと眉を顰めながらも、妹子はバッサバッサと敵を切り倒していく太子から、こちらに突進してくる鬼達に視線を移した。
「【アイスレイン】」
『ウガァァァァ!!』
鬼達の頭上に現れた魔法陣から鋭い氷の雨が降り注ぐ。それは一瞬で鬼達を串刺しにした。
「【乱れ突き】!」
『グガァッ!』
「負けないんだからねっ☆」
「そのキャラ止めろっつってんだろ!」
どこぞの魔法少女のようにポーズを決める太子に妹子は炎の槍を飛ばす。太子はそれをギリギリのところでかわした。
「あっぶな!おま、上司に何すんだコラー!」
「上司としての威厳が毛ほども感じられないんですが!?」
まだまだ大量の鬼が向かってきているのに言い合うのを止めない二人からは、危機感なんてものは微塵も感じ取れなかった。
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