3

「宿に着いたはいいんですが太子……」

「なんだ?」


何やら暗い表情の妹子は鼻をつまみながら低い声で言った。




「太子……臭いです!」




「………」

「………」



二人の間に沈黙が流れる。そしてーーーーーーー


「妹子のばかやろおおおおおお!!」

「ええええええっ!?ちょ、太子!いつも言われてるのになんでそんなにショックを受けるんですか!」


いつもと反応の違う太子に妹子は戸惑う。太子は涙ぐみながら小さい声で理由を述べた。


「私……このコロン気に入ってたのに」

「そこかよ!もっと深刻なところにダメージを負ったのかと思って心配した気持ちを返せー!」

「だって……このコロン高かったし…店の人も皆つけてるって言うから……」

「こんな魚臭いコロン皆つけてたら今頃この国は魚市場になってますよ!」


大方カモにされたんだろうと妹子は思ったが、今それを言ってしまうと太子が本格的に泣き出してしまう恐れがあるので止めておいた。


「とにかく!そのコロンはもうつけないでください。竹中さんが見つかったら差し上げたらどうですか?」

「そうだな……そうするよ。にしても竹中さん、早く見つかんないかなぁ……」



フィッシュ竹中。


それは半年前に忽然と姿を消した男だった。
初めは旅に出ただけだろうと心配しながらも放っておいたのだが、三ヶ月ほど前からとある噂が二人の耳に入った。


『魚と人のキメラが鬼達と一緒に町を襲っている』


と。


彼がやっているとは認めたくはない。だが半年前に姿を消し、また外見に心当たりがある人物といえば彼しかいないのだ。

彼を見つけ、その真偽を確かめるために二人は遣隋使以来の旅に出たのだ。

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