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「じゃあ皆バイバーイ!」

「さようなら」

「お疲れー」


各々挨拶をして帰路へ向かう。曽良の住んでいる寮は僕の家と同じ方向にあるので、自然と一緒に帰る形となった。


「楽しかったねー、曽良」

「……僕はそうでもないですけどね」

「あ……いや、まぁ。確かに災難だったね……」


例の件を思い出して、少し気まずくなる。やっぱり恥ずかしい。

チラリと曽良を見る。いつもながら何を考えているかわからない無表情だ。

視線に気づいたらしい曽良が、少し睨むようにこちらを見た。


「なんです?」

「い、いや、別に。なんでもないよ」

「そうですか」


またも沈黙。……気まずい。非常に気まずい。

何か話そうと口を開いた時、それを遮るように曽良が話し始めた。


「……神宮先輩に問い詰められた時、僕を助けようとしてましたよね」

「え?あ、あぁ……うん。結局止められなかったけど……」


何故いきなりそんなことを言いだすのだろうか。もしかして、止められなかった僕に怒っているのだろうか。


「あ、あの、怒ってる?」

「…なんで僕が怒るんですか」

「いや…ほら、僕、閻魔先輩を止められなかったから……」

「怒るわけないでしょう。むしろ感謝していますよ」

「ほ、ほんと?」

「当たり前です。止めようとしてくださっただけでもありがたいですよ」

「そ、そっか!良かった〜」

「……」


曽良が怒っていないと知り、胸をなでおろす。怒るどころか感謝されてしまった。うんうん、恥ずかしい思いをした甲斐があるってもんだよね!


気がつくと、いつも曽良と別れる十字路が間近に迫っていた。


「じゃあ曽良。また明日」


そう言って十字路を右に曲がろうとした時、パシッと腕を掴まれた。振り向くと、相変わらず無表情の曽良の姿が。

どうしたんだろう?と首を傾げた時、曽良の無表情がふっと笑みに変わった。


「ありがとう」


曽良は柔らかい笑顔でそう言うと、パッと手を離した。もう一度瞬きした時には、もう曽良の顔はいつもの無表情に戻っていた。


「では、さようなら」


そのままスタスタと寮の方向に去って行ってしまう。僕はまだ何が起こったのか理解出来ず、ぼーっと十字路の真ん中で突っ立っていた。


ーーーーえ?


『ありがとう』


曽良の笑顔と言葉が脳内で反復される。あ、れ……?敬語……え?


「タメ口……だった?」


しかもすっごい笑顔……。

ようやく状況を理解し、なぜか顔が熱くなる。


「え…え…?えええええええええっ!?」


曽良には申し訳ないが、曽良のタメ口に普通の返答を返せなかったという人達の気持ちが分かったような気がした。



【彼のコンプレックス】

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