18


「あらら、妹っこも寝ちゃったね」


太子の頭を撫でながら閻魔がイタズラっぽく言う。


「そ、曽良君……顔が怖いよ……?」


曽良の顔が般若のようになっていたのに気づいた芭蕉がガタガタと震えている。曽良は芭蕉をギロっと睨むと、自分の膝に頭を乗せて眠る妹子を見て小さく溜息を吐いた。


「眠たいのなら帰ればよかったものを……」

「まあまあ。寝不足だったのもあるだろうけど、多分太子さんにつられたんだと思うよ?」


鬼男が小さく笑う。どうやら妹子の目元に隈があったのに気づいていたらしい。


「少しの間だけどゆっくり寝かせてあげて。河合君は少し動きづらいかもしれないけどね」


ニコニコと笑いながら紅茶を啜るヒュースケンは楽しそうだ。そんなヒュースケンを見て曽良は再び溜息を吐く。


「少しどころか全く身動きがとれませんよ。まったく……僕にこんな迷惑をかけておいて、無事で済むと思っているんですかね……?」

「怖ッ!マジで鬼だよあの子!」


妹子に向けた言葉の筈だったのに、何故か芭蕉が反応する。


「一時間の辛抱だよ曽良っち。こんなに気持ち良さそうに寝てるのに起こすのは可哀想だからね」

「……チッ。この馬鹿芋が……」


さっさと起きなさい、と膝の上の妹子の頬を軽く抓る。それでも起きない妹子はかなり熟睡しているらしい。


「……ハァ。こんな状態では何も出来ませんね。芭蕉さん、僕の鞄に入っている本を取っていただけますか」

「う、うん。えーと……これ?」

「はい。ありがとうございます」

「? どうするの?」


素直に礼を言い、本を受け取る曽良に謎の感動を覚えながら芭蕉が問う。


「読むに決まってるでしょう。それ以外に何があるんです」

「いや、曽良君のことだからそれで叩き起こすのかと……」

「それもいいですね。芭蕉さん、実験台になってもらえますか?」

「ごめんなさい!松尾謝り!」


90度に頭を下げる芭蕉。曽良はそんな芭蕉には見向きもせずに本を開いた。


(アイスだけでは済ませませんよ)


そんな曽良の静かな怒りに反応したかのように、膝の上の妹子が小さく呻いた。

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