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「ここですか」

「ここだね。じゃあ開けるよ?失礼しまーす」


ゆっくりと扉を開け、中に入る。中には見覚えのある人が椅子に座って本を読んでいた。扉の音に驚いたらしく、その人はビクゥッと体を怯ませる。そして、恐る恐ると行ったようにこっちを見た。


「あの…仮入部というか、部活見学に来たんですけど……」

「え?ほ、本当!?やったー!」


その人は一瞬で目の前に来たかと思うと、ギュッと僕の手を握って喜んだ。唖然としていると、後ろにいた曽良がバシッとその手を叩いた。


「何しているんです、芭蕉さん。それに喜ぶ前に挨拶ぐらいなさい」

「そ、曽良君!なんでここに!?絶対来ないって言ってたのに…」

「芭蕉さん、挨拶と自己紹介」

「あ、そうだったね!初めまして僕は文芸部顧問の松尾芭蕉だよ。曽良君がいる一年C組の担任で、普段は古典を教えています。よろしくね!」


ニコニコと笑いながら自己紹介をする芭蕉先生。隣のクラスだし、何度か廊下で見かけたことはあるけど、すごくふわふわしてる人だなぁ。


「よろしくお願いします。僕は一年B組の小野妹子です」

「B組かぁ。B組って言うと古典は馬子先生だね」

「はい。でも芭蕉先生の古典の授業も受けてみたいです」


厳しい馬子先生とは正反対の授業なんだろうなぁ。


「スピードが驚くほど遅いので、止めておいた方がいいですよ」

「ヒドゥイ!なんでそんなこと言うんだよ曽良君!」

「でも分かりやすいんじゃないの?」

「……まぁ、ほどほどには」

「やったー!曽良君に褒められた!松尾喜び!」

「うっさいです芭蕉さん。叩き割りますよ」

「叩き割る!?やめてー叩き割らんといてー!」


分厚い本を振りあげる曽良に、芭蕉先生がさっと僕の後ろに隠れた。


「で、部活見学だったね。申し訳ないんだけど、皆今日は来てないんだよね……ほら、ここ自由な部活だから」

「今日は……ですか。いつもは来てるんですか?」

「うっ…皆月に一回は一応来てくれるんだけど……」

「芭蕉さん、それはもはや幽霊部員同然ですよ。自由と言っても限度があるでしょう」

「うう……ごめんなさい」


曽良の言葉に項垂れてしまう芭蕉先生。ふふっ、ワンコみたいだな。


「こんな部活だけど二人とも入ってくれる…?」


うっ…、正直どうしようか迷っていたりする。

他の部活にも入ってみたい気はするけど、こんなうるうるした目で見られたら断りづらい。どうしよう……。


「考えておきます。まだ他の部活も見て回ろうかと思っていますし、今はこれで失礼します」


どう答えようか迷っていると、曽良が助け舟を出してくれた。心の中で感謝しつつ、曽良の言葉に便乗する。


「ぼ、僕も他の部活を見てから決めようと思います。芭蕉先生、ありがとうございます」

「考えててくれるんだね!ありがとう。部活はこれからの学園生活をどう過ごすかを左右するから、ゆっくり考えるんだよ」

「ありがとうございます」


曽良の言葉に便乗してとりあえず保留にすることは伝えた。芭蕉先生によると、掛け持ちもOKらしいからいざというときは二つ入ればいいだろう。


嬉しそうな芭蕉先生に見送られ、僕達は文芸部をあとにした。

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