「名前さーん!」
「僚。どうしたの?」
麻雀の面子が足りないんだ、と可愛らしい仕草で僚がスーツの裾を掴んでくる。うう、可愛い。でも、
「私…麻雀のルール知らないんだけど…。ていうか、弥生の方が混ぜたら楽しそうじゃない?」
主に、視覚的な面で。
「うう…勘弁してって言われた…」
「ああ…」
美人に言われるとキツイもんね。多分、弥生のことだから楽譜と睨めっこで一瞥もしなかったんだろうなぁ…。
でも、やっぱり素人が行ってもなあ。カモられるだけだろーな…。いや、むしろこれが狙いか?
「ねえお願いだよー!征陸さんも来るしさー!」
うーん…僚はただ遊びたいだけみたいだな…。でもなあ、やっぱなあ。トモさんも笑顔で総取りしそうだなあ。
「他の面子は誰なの?」
「んっとねー、今日神月さんドタキャンで、…佐々山さんが来ます!」
…逃れたい、切実に。

                **********

「おお内藤、遅かったじゃねえか。」
「いやー名前さんが渋りましてー」
「名前ちゃんじゃねーか!今日もいいスタイルしてんねぇー!」
「ぎゃー!!」
だっから嫌だったんだよこのヤロー!僚の説得に頷いてしまった、数分前の自分を殴りたい…!このセクハラ大魔王にだけは会いたくなかったのに!!
「セクハラってもう見れないものだと思ってましたー。」
「ま〜あアイツだからなあ。」
「ちょっ…、どこ触ってんだクソ山っ!」
「いやいや、セクハラ大魔王の名に懸けてセクハラしないワケにはいかないでしょ〜。」
「ドヤ顔で言うな!」
ぎゃーぎゃーといつも通りのやり取りを、少し離れたところで傍観するトモさんと僚。助けなさいよあんた等!
「いい加減…!」
「おーっと、…グーかよ。怖い怖い。」
ぶん、と思い切り振った腕は目の前の男の頬に当たることなく逆に囚われてしまう。そのまま引っ張られるようにして退室する流れになってしまう。
「な、なによ、一体、」
「内藤ー、俺やっぱ今日は辞めとくわー」
ちょっとツケどうしてくれるんですか、面子もたりないじゃないですか!と僚が叫ぶのもお構いなしに、ズルズルと私を引きずる佐々山。トモさんだけがにやにやとしたり顔で黙っている。ああ畜生嵌められた。
大方、佐々山と私の様子にやきもきしたトモさんが僚を使って私を呼び寄せたのだろう。多分神月も一枚噛んでる。僚だけ何もしらないでいたのだろうな。


「…ねぇいい加減はな「今日、」…?」
「今日俺が志恩にちょっかい出した時、しかめっ面してたのは誰だったっけな〜?」
「っ!」
「ああ、後俺がこの前怪我した時しょっちゅうソワソワしてギノ先生に怒られたんだっけ?」
「そ、そんなワケないじゃない!!誰よそんな嘘言ったの!」
「咬噛。」
「あいつ余計な事を…!」
ってことは事実なんだ、と佐々山が一層笑みを深くする。あああ墓穴。
というか、今の状況。
いつの間にか壁を背に佐々山と向き合うような体勢で、しかも、吐息が交じり合うほどの至近距離。傍から見たら、恋人同士にしか見えない。
心臓がバク転をして、へったくそな体操選手の着地みたいにいっちょまえに諸手を上げやがる。
……認めるわよ。今私人生で一番有頂天よ。好きな人とのこの距離に正常な反応できる女なんて女じゃないわ。
志恩みたく色気があるワケじゃない。
弥生みたくクールで美人なワケじゃない。
人よりちょっと犯罪係数の高い、捻くれてて、負けん気の強い凡庸な私だって女なのよ。
「素直になれよ〜。ほーんとツンデレなんだから〜。」
「…ああもおなんでこんな変態好きになっちゃったのさ私のば、」
不意に、口を閉じた。
だって、私、今、
「混乱すっと声に出るクセ直せって散々ギノ先生に言われてたのにねぇ〜?」
「………っ」
逃げ場は無えぜ、なんてこれ見よがしに笑う佐々…変態。そんなのにもときめいちゃう自分の頭は、取り返しのつかないくらいどうかしてる。どうしよう。本当に、どうしよう。
「わっ!?な、泣くなよ!」
涙まで出てくるとかなんなのホント。コイツの前で泣くとか最悪すぎる。
「おい大丈夫か?」
「覗き込まないでよ…。あほ、すけべ、へんたい、」
こんな、ぐちゃぐちゃな顔見られたくない。不細工だって、気持ち悪いって、思われたくない、嫌われたくない。
毎朝アンタに魅てもらうために、気に入るまでしてるお化粧も、お洒落も、全部台無しじゃんか。
「…大嫌い、あんたなんて、本当に、


  大好きだ。」

「…………このツンデレめ。知ってっか?ウィークってね、曲げること、うねることも表すんだとよ。」

今日がお前と俺の、ウィークエンドだ。