※死ネタ

執行官の私は、監視官である狡噛慎也に恋をしてしまった。
笑えない冗談だ。報われる報われないとかそんな次元の話ではない。これは、許されざることなのだから。
なりたくてなったわけではないが、私は5年ほど前に潜在犯という存在になってしまった。そしてその2年後にシビュラシステムによって執行官の適性があると判断され、犬でもなんでもいいから外に出たいという一心で執行官になった。もちろんそう甘くは無かった。管理、監視される立場であることに変わりはなかったし、外に私が思い描くような希望はなかった。仕事は慣れるまではもちろん大変だったが、私は生きていると実感出来ることが嬉しかった。正確には生かされている、のだろうが。

そんな中、彼、狡噛慎也は私の中で存在をただひたすらに大きくしていった。これと言った理由があったわけでもないけれど、しいて言うなら彼は優しすぎた。気がついた時にはもう遅かった。すき、その二文字を脳内で反復させる。幸い、面に出やすい方ではないためこの気持ちを伝えることはせず、いままで通りいることにした。
これを知っているのは同僚の佐々山さんだけだった。自室で二人で飲んでいた際口を滑らせてしまったようで、もう一生人と飲まないと決めた。
「なんで言わねえんだよ」
だって、結果は見えてるのに行動に移すなんて馬鹿のすることな気がする。私はそういう考えでこれまで生きてきたのだから私の25年をそう簡単には変えられない。「動いてみなきゃわかんねーのになぁ」「佐々山さんも優しいですね、ありがとうございます」「も、かよ!何もしてねえから礼とかやめろ、気持ち悪ぃな」
本当に、感謝している。気持ちが軽くなった気がしたのだ。だから、佐々山さんが死んだと聞かされた時、自分でも知らないうちに泣いていた。久しぶりに自分の涙を見た気がした。
そして、狡噛慎也がしばらくして一係から姿を消した。

***

久しぶりに会った彼は、私の同僚となっていた。「お久しぶりです、狡噛さん」「ああ…苗字か」
私の頭には佐々山さんの言葉がいつまでも残っていた。同じ立場になった今なら、前とは何かが違う。行動に移すべきなのかも、そう思う自分がどこかにいた。私もただの馬鹿だったのだと知り、笑えた。いつかは言おう。結果がどうであろうと、互いに生きていく世界はここしかない。優しい彼は今までと変わらず接してくれるだろう。


私たちは同じ世界にいるのだと、そう勝手に勘違いしていたのかもしれない。
調子にのっていたのかも。

胸に刺さったナイフからどろりと何かが伝った。目の前の男は手にしたドミネーターで確実に仕留めよう、それこそが私が外に出るために課せられた使命なのだから。
ああ、駄目だ…腕が上がらない。この役たたずめ。
刹那、男は飛び散って消えた。男の残骸の奥にいたのは狡噛さんだった。
「苗字!大丈夫か!」
こんな登場ずるい。かっこよすぎる。なんだか泣けてきた。「こ、がみさ…」
無様にも腕をのばしてみた。「おい、しっかりしろ!苗字名前、生きろ!」彼は私の腕をしっかり握りながらそんな言葉を吐いた。優しいなあ、もう。それだけで充分だ。

狡噛さん…私はやっぱり、あなたのことが「  」