「総司。あんたは一体何を考えているのだ」

「・・・・・・さあ?何だと思う?」

先程、総司となまえが二人きりで何をしていたのか。

なまえに聞いても「何もない」と言う。

彼女を疑うわけではないが、学生時代からの友人である総司に、彼女を取られてしまうのではないかと不安がよぎったのは事実で。

「・・・もし、あんたがなまえを好いていたとしても、渡すつもりなど、無い」

「ふーん・・・それ、なまえちゃんの前で言ってあげればいいのに」

何を企んでいるというのか。

否定する訳でもないという事は、やはり総司も彼女が好きなのではないか・・・そう考えれば、合宿など連れてくるべきではなかったと今更後悔している。




episode6 "期待ハズレの空模様"




もし総司が彼女を好いていたとすれば、この様な部屋割にはするはずがない。

あいつは・・・。

おそらく、俺が彼女に抱いている気持ちを察しているのだろう。

いつまでも幼馴染という関係に甘んじている俺達を、進展させたいと、そう思う方が自然だ。

だからと言って、この合宿中に同じ部屋で寝泊まりしろと言われ簡単に出来るものでもない。

毎晩毎晩、俺がどんな思いをしているかも知らないだろうに。

だが、彼女の両親に『はじめ君が一緒なら安心だな!』と信頼されている俺が、彼女を攫ってしまったら、合わせる顔などないというもの。

偶然とはいえ、鍵付きの部屋で良かったとその時の俺は胸をなでおろしていた。





俺は耐えられる自信など無い。

一週間と言う長い期間、彼女と毎晩同じ部屋で過ごせと言われ、触れるなと言う方がおかしいだろう。



だが、総司の言い分ももっともだ。

俺以外の誰かが彼女と同じ部屋になるなど、誰が許すか。



誰かに触れられるのを黙って見ているくらいなら、俺が強引にでも、彼女を壊してしまえばいいと、そう思ってしまう。







「俺と何かあったら、なまえはどうする?」






こんなに驚いた顔をするのを初めて見た。

口を開けたまま、彼女は固まって動かない。

俺の言った言葉を、彼女がどう捉えそうなっているのかは、俺が期待している通りであれば嬉しいが、もし違うとすれば・・・。







「っ、あ、あははっ、なに、それ。沖田くんに言わされてるんでしょう?」







驚いた顔のまま、ひきつった笑いを見せた彼女が言った言葉は、俺を怒らせるには充分だった。






「・・・・・・もう、いい。なまえがそう思うならそれで構わん。俺はリビングのソファで寝る」





「え?・・・ちょっと、はじめっ!!」





呼ばれた名前も、伸ばされた手も、振り切った。


彼女がそれを、望んでいないのならば。


一緒に住む事になって、彼女も俺を好いていると、一人で勘違いをしていたようだ。


毎晩帰りを待っていてくれる彼女も。

料理の練習を隠れてしてる彼女も。

俺の為だと、思っていた。



じわりと、熱くなる目頭と、歪んだ視界に、瞬きをすればこぼれ落ちるだろうそれを、必死でこらえた。




「一君、どう・・・」

「俺は、リビングで寝る事になった」

「え?」

目を合わさずとも、総司が驚いていることくらい分かる。

2階まで運んだ荷物を、また、1階へと降ろした。



1階に戻れば、片づけを終えたらしい彼女が、ダイニングで待っていた。

「はじめ・・・あの、ね?聞いて?」

「・・・・・・頼む。一人にしてくれ。あんたも、早く休め」

彼女に冷たくするのは初めてだ。

それでも罪悪感を感じないのは、おそらく、今俺が自分の事しか考えられなくなっているからだろうと思う。

ずっと、ずっと大切に守ってきた彼女を、突き放すなど。




何も言わずに彼女は2階へと上がって行った。


これで、いい。




俺はこれから、彼女を想う事を止めれば良いだけの話だ。

“兄妹”のような存在で居れば・・・・・・。



瞬きを、我慢していた筈なのに、ぽたりとこぼれ落ちてきたそれに、なんて自分は女々しいのかと、ため息しが出なかった。



ずっと、


ずっと。



温めていたこの想いを、無かった事にしてしまえば、いいのだ。




「・・・っ・・・・・・」






いつか誰かが、彼女を攫って行く時に、俺は、黙って見ているしかないのだろうか。





あの笑顔を、俺以外の誰かに―――







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