「・・・・・・・・・」

「・・・・・・あはは、うん、うんそうだね・・・・・・え?いや、まあ」

食事を終え、先ほどから彼女がずっと誰かと電話をしている。

少しはにかんで嬉しそうに話している相手は誰なのだろうか。

会話の内容から、つい数時間前に付き合うことになったことを誰かに報告しているようだが、彼女の口調から両親ではないことだけはわかった。

面白くない、そんな顔をしながら、彼女の顔をちらりと見やれば、はい、と携帯電話を渡された。

「な・・・・・・お、俺にどうしろと」

「え?あんまりこっち見てるから喋りたいのかと思って・・・ちがうの?」

「だ、誰なのだ」

「・・・・・・あ、沖田くん」




episode29 "スカート"




「話すことなどない」

「えー?はじめからもちゃんと言ってよ、付き合うことになったって」

「別に今日でなくとも、次にあいつと会った時で・・・」

「だって私、そんなに沖田くんに会わないもん!・・・・・・ほら!はじめの口からも、ちゃんと言って欲しいの」

そう、彼女に強請られては断る事などできず、渋々携帯を受け取った。

「総司、」

俺の言葉を待っているらしい彼女が、隣でクッションを抱きしめながら嬉しそうな顔をしている。

「・・・・・・なまえ」

「ん?」

「・・・・・・切れている」

「え・・・・・・わっ、メールきた。あれ、沖田くんだよ」



“僕を間に挟んでイチャイチャするのやめてくれるかな。

それから、僕にしてみれば二人が付き合ってようが付き合っていまいが正直関係ないけど。

でも、おめでとう。これから堂々と一君をからかえるのかと思うと楽しみだよ。なまえちゃん、よかったね”



「・・・・・・だって」

総司からのメールを声に出して読んだなまえが、こちらを向いて笑いをこらえていた。

「何が言いたい」

「え?いや、沖田くんにからかわれるの想像したらちょっと面白かっただけ。あはは」

「なまえ・・・」

「・・・・・・ん、」

笑われるのが嫌なわけでも、からかわれることにイラついているわけでもない。

ただ、総司に嫉妬している。

こんなに近くにいる彼女を、俺よりあいつの方が幸せそうに笑わせることができるのではないかと。

だが、今あんたの目の前にいるのは俺だ。ずっとそばに居たのも、これからそばに居るのも。

束縛するつもりはない、だが、せめて今日くらいは、俺だけを見ていて欲しいと、楽しそうに笑う彼女に口付けた。



「・・・・・・はじめ、くすぐったい、」

「・・・当たり前だろう、そう、させているのだ」

唇をついばみ耳元でそう囁けば、彼女の肩が少し震えた。

「もう、どうしたの・・・・・・ふふ、やめてったら」

遠ざけようと、俺の胸を手で押さえていたが、一切力を入れていないらしく、そのまま彼女に迫ってしまえば、簡単にソファに倒れ込んだ。

「・・・断る」


「はじめ?・・・や、ちょっ・・・」




「・・・あんたを、一日中抱いていられたらどれだけ幸せか」



その言葉を聞いて、ふい、と視線を逸らした彼女に、言いすぎてしまったかと少し後悔をした。



「す、すまない、そんなつもりで言ったわけでは・・・」



今まで引いていた境界線を飛び越えてしまったことで、俺の我慢も相当効かなくなっているらしい。

しかし、ただキスがしたいとか、寝たいとか、そういう考えでは決してないのだと―――




「・・・違うの、嬉しいの」




真っ赤な顔で俺を見上げた彼女が、恥ずかしそうに口を開いた。



「今までよりも、もっとずっと、近くにいたいの・・・私もそう思ってるよ?」



「・・・すまない」


「はじめ?」


「・・・・・・手加減、出来そうにない」


「ん、っ」



今まで過ごしてきた時間を上書きすることなど出来るわけがない。

だから、これから先、あんたの将来を全部、俺に託してほしい。



「なまえ、愛している」



幸せも、悲しみも、喜びも、怒りも、苦しみも、全て、あんたと感じたい。

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