「・・・・・・起きた、か」 目が覚めると、目の前には優しく微笑んでいるはじめが居た。 「はじめ・・・・・・」 「どうした」 「・・・・・・ん、あのね、夢・・・見てた」 ぼんやりとした頭で、先ほど見ていた夢を思い返してみる。 「良い、夢だったか?」 はじめが、私の乱れた髪を整えるように、そっと頭を撫でた。 その大きな手とぬくもりにすごくホッとして、思わず顔が緩んでしまう。 「・・・・・・何、聞きたい?」 「言いたそうな顔をしているのは、あんただろう」 「あはは、バレた」 episode28 "君となら" 「・・・デート?」 「そう、デートする夢」 ひと眠りした私たちが目を覚ますと、もう夕方になっていた。 昨日あまり眠れなかったせいもあって、きっと安心しきった私はぐっすり眠っていたんだろう。 はじめがいつ目を覚ましたのかはわからないけれど、寝顔を見られていたのかと思うとなんだかくすぐったい。 日が落ちるのが早いせいで、既に外は暗くなっている。 これから買い物に、という時間でもないし、とりあえず二人で晩ご飯の支度をすることになった。 脱ぎ散らかした服をもう一度拾い上げて身に纏うのが、なんだかお互い恥ずかしくて、背中合わせのまま、無言で袖を通した。 ペタペタと、裸足でキッチンに向かい、何が作れるだろうかと冷蔵庫を覗き込みながら、私は夢の話をした。 「ふたりで待ち合わせて・・・・・・あ、でもね、一緒に住んでるんだけど」 「一緒に住んでいるならば、共に家を出ればいいだろう」 「それもそうなんだけど、何か待ち合わせたほうがデートっぽいよね、っていう話になったの」 わけがわからない、と少し首を傾けながら、彼は味噌汁を作り始めた。 「それでね、待ち合わせて、一緒に出かけるんだけど。手、繋いだり、こう・・・・・・さ、」 「なまえ、俺は今包丁を握っているのだが・・・・・・」 夢の中でしたみたいに、はじめの腕に絡みついて顔を覗き込んでみたら、普通に怒られた。 「・・・ごめん。で、ね?手を繋いだり、腕を組んだり、“恋人同士”ではしゃいでたその感じがすごく楽しかったの」 私はシンクに寄りかかりながら、手際よく食材を切るはじめのその様子をじっと見ていた。 「・・・・・・だから、何を言いたいのかと、言いますと、ですね」 「何だ?」 「うん、その・・・・・・返事?ほら、はじめが家族になりたいって言ってくれた」 「・・・・・・い、今するのか」 急に、彼の手が止まって、じっとまな板を見つめてた。 「え、じゃあご飯の後がいい?」 「・・・いや、構わん・・・いつ聞いたとしても、答えは同じだろう」 そう言うと、またテンポよく包丁を動かし始めた。 「私、はじめと家族になりたい」 「そ、そうか・・・・・・それは、その、よ、よかった」 「・・・でもね?」 私のその言葉に驚いたらしい彼が、ゆっくりとこちらを向いた。 少し不安そうなその瞳が、前髪の隙間から覗いている。 「条件付き、か?」 「やだな、そんなのじゃなくて。ただ、ちゃんと“恋人”やってからが良いなって思ったの」 「恋、人・・・?」 まるで、初めて聞いた言葉みたいに聞き返された、彼が口にした“恋人”という言葉が、なんだか新鮮で。 「そう。夢で見たみたいに、デートしたい。・・・・・・だめ、かな?」 「いや、あんたがそれを望むなら、それでも構わん。別に焦ってするものでもないだろう」 「何を?」 「・・・・・・け、」 「け?」 「・・・・・・こ・・・ん」 「うわ、ずるい!ちゃんと言ってよ!」 「・・・言・・・言う必要など、ないだろう。俺はちゃんと、家族になりたいと伝えたはずだ」 「それともちょっと、違うんだよね。なんかさ、こう・・・・・・・・・うまく説明できないけど!」 「説明できぬなら、違いなど無いも同然だろう」 「じゃあわかった。はじめが、私に、“結婚しよう”って言えるようになるまでは恋人ね!」 「なっ・・・・・・」 「1年くらいは恋人でも良いよ?」 そう言って、真っ赤になったはじめの顔を覗き込むと、交わった視線はすぐに逸らされた。 「・・・・・・晩飯の支度を俺一人にやらせる気か?」 「話逸らそうとしてもダメだからね?」 逃げる彼の視線を追いかけてそう言うと、包丁を置いた彼は、私が寄りかかっていたシンクに両手を掛けて、私の逃げ道をふさいだ。 そうして、ゆっくりと近づいてきた彼の唇に、私は目を閉じる。 こんな風に、日常の隙間に、触れ合うことができるなんて、とても幸せだと思う。 「・・・もう、何、急に」 「“恋人”は、口付けをするのに許可を取るものか?」 「・・・・・・私のわがまま、聞いてくれるの?」 「あんたを、離したくないからな」 「・・・ありがと」 prev next |