翌朝、目が覚めた時にははじめは隣に居なかった。

どこに行ったのだろうかと、1階へ降りれば、沖田君と二人、何やら私の介入できない真面目な話をしていた。

「なまえちゃん、おはよう」

私に気付いた沖田くんが先に、挨拶をくれた。

「お、おは・・・おはよっ」

なんとなく、はじめの顔を見ることができなくて、私はそのまま朝ごはんの支度を始めた。

どういうつもりなのか問いただしたいけれど、沖田くんが一緒じゃ、聞けないよね。



episode12 "game over death"



その日は結局聞く事も出来ないまま、昨日と同じく私は先に部屋で休んでいた。




“どうしてキスしたの?”



その答えが知りたい。

臆病でずるい私は、彼からのちゃんとした言葉を貰えないと、自信が持てない。

ねえ、お願い。好きだって言って。

私の答えは“イエス”に決まってるんだから。







「あっと言う間だったなー!!」

ごそごそと、大量の荷物を車に詰め込み、帰りの仕度をしていた。

最後の練習だった昨日は、私もサプライズで呼び出され、贅沢にも彼らの演奏を独り占めした。

確実に上手くなっていた演奏に鳥肌が立ったし、何より、はじめがかっこ良すぎてどうしていいか分からなかった。

・・・演奏している彼を、直視できない。

「さて、じゃあそろそろ出発するか」

運転席に乗り込んだ原田さんに続いて、私も助手席へ座った。

「いいのか?斎藤の隣じゃなくて」

「・・・ここが良いんです」

「嬉しいね」

結局、キスをされたのはあの日だけだった。

だから余計に自信がなくて。

気まぐれだったらどうしようとか、本気じゃないんじゃないかとか。

考え出したら不安でしょうがない。

来る時私が助手席に座ったら、あんなに睨んでいたのに。今は何も、言ってこないし。

「眠くなったら寝てて良いからな」

「・・・・・・ありがとうございます。でも、大丈夫です」

「そうか」




後ろで賑やかに騒いでいた藤堂くん達の話声が、気付いたら聞こえなくなっていた。

どうしたのだろうかと確認すると、皆眠ってしまっていた。

よっぽど疲れてたんだろうな―――。

だって、はじめまで、眠ってる。

あ。そうだ。

「・・・どうした?」

ごそごそと鞄を漁って取り出した携帯を、後ろの3人に向けた。

「えへへ、記念撮影」

「・・・斎藤だけアップで撮ってんだろ」

「へ!?ち、違いますっ!!」

そう、言いながらも、手ブレを言い訳にして、実は、1枚だけはじめのアップの写真を撮っておいた。

「みょうじさんは、斎藤の事好きなんだろ?」

「はっ・・・え、あのっ!?急に、何です!?」

撮った写真を眺めていたら、意地悪そうな声色で、そう原田さんに話しかけられた。

「青春、だな」

「・・・・・・からかわないでくださいっ!!き、聞こえたら・・・」

「寝てんだろ、大丈夫だって」

「・・・・・・」

ちらりと皆をもう一度見るが、確かにぐっすり眠っているようだ。

「・・・・・・分からなくて」

「ん?」

「はじめが、どうしたいのかが」

「・・・何かあったか?」

「・・・私が寝てたら、キスしてきた癖に、何も言ってくれなくて」

「なるほどなあ・・・まあ、分からなくもねえか」

「どういうことですか」

「そんな心配する事でもねえってことだ」

「・・・大人の解答過ぎて分かりません」

「あはは!」

なんだかはぐらかされた気がする。

ちょっぴりふてくされた私は、ぷい、と顔を背けた。

「・・・でもよ、あいつ、みょうじさんの事すっげぇ大事にしてると思うぜ?」

「え・・・・・・」

そう言われて、ちらりともう一度はじめを見るが、相変わらず綺麗な顔ですやすやと眠っていた。



・・・だと、良いんだけど。







お疲れ、と3人に見送られて、私とはじめは一週間ぶりに家へと戻ってきた。

やっぱり、家に帰ってくるとホッとする。

二人きりになったら、緊張してしまうかなと思ったけれど、意外と住み慣れたこの家のお陰で落ち着いていた。

「ごはん、どうする?」

自分の部屋に機材を片づけに行ったはじめに、私は少しの洗濯物を片づけながら声を張って聞いた。

「・・・・・・はじめー?」

一向に、返ってこない返事にちょっぴり心配になりながらリビングに顔をのぞかせると、こちらを向いてはじめが立っていた。

「もう、居るんじゃない、ねえごはんどうする?買い出し行く?」

私の質問に答える気など無いのか、黙ったまま。




「・・・・・・なまえ」



「は・・・」





急に、押しつけられた唇は、あの日みたいに優しくなんかなかった。









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