皆が帰ってくる前にお風呂は済ませた。

はじめがお風呂に入っている間に、歯磨きもした。

今朝見た夢を思い出しながら、念入りに、だ。

別に、そうなるって決まったわけではないけど。

万が一、万が一ね?

もし、そうなった場合。きっと私は彼を受け入れてしまう。

でも、そうなるって事は。はじめも私を好きだって、思って、良いよね?




episode11 "テノヒラ"




沖田くんには「隣の部屋だけど、気にしなくて良いからね」なんて、ニヤニヤしながらおやすみを言われた。

現在時刻は、日付けが変わるころ。

沖田くんたちは、疲れたからと既に部屋で休んでいる。

私は、なんとなく部屋で何をしていていいか分からないから、そわそわしてしまっているこの、ちょっとだけ浮かれた気持ちを静めようと、興味もない深夜のテレビ番組を見ながら、はじめの事を考えていた。

「・・・まだ起きていたのか?」

リビングに顔を出したはじめは、お風呂上がりでほんのり頬が色づいている。

別に、そんなの毎日見ているから、普段ならなんでもない筈なんだけど。

「あ、うん。もうすぐ寝るよ?」

「・・・先に、寝ていろ」

「・・・う、うん」



先に、寝てろだって・・・。



やばい、私いま、枕をバシバシ叩きながら足をじたばたさせたい衝動に駆られている。

いつもならお互い“おやすみ”と言ってそれぞれの部屋に行くから、そんなの言われた事無い。



―――寝れるわけ、ないじゃんっ!!


洗面所から聞こえるドライヤーの音を聞きながら、私は自分の部屋へと戻った。

ドキドキとしながら階段を上がっていると、隣の部屋からものすごいいびきが聞こえてきた。

・・・・・・藤堂くん、あたりかな。

それにしても私、昨日は普通に眠れたのに、こんなにいびきうるさいとか・・・・・・あれ?




なんか、違和感。



私、昨日部屋にずっといたっけ?





・・・・・・私、確か・・・はじめの傍に・・・リビングのソファで・・・・・・あれっ!?



私、リビングで、寝てた!!!!

何で部屋に居たの?戻った記憶なんてない・・・って、事は。

はじめが、運んだって事?

や、やだっ!!うそっ!?



・・・そういえば、はじめ・・・今朝、眠れなくて散歩して・・・それで湖を見つけたって言ってたけど・・・。

って、ことは。一回起きてるって、事だよね?


背負われていたのか、抱えられていたのかは分からないけれど、私を2階まで運んでベッドに寝かせてくれたのは絶対はじめだ。


どうして、何も言って・・・・・・。

ちょ、っと・・・待って?

私が見た夢って・・・





―――夢じゃ、無かったりして?




沖田くんが言った言葉が私の頭の中でぐるぐる回ってる。

だとしたら・・・。



「〜〜〜〜〜っ!!」

いや、だって、違うかもしれない。

はじめは何も、してない、と思う。

だって・・・・・・。あんなに冷たくした癖に。

そう、きっと、違う。






私が悶々と考えを巡らせていると、階段を上ってくる足音が聞こえた。

3人はもう眠っているから、その足音ははじめ以外の誰でもない。

思い出した沖田くんの言葉のせいで、まともにはじめの顔を見ることができない気がする。

急いで部屋の電気を消して、一番奥のベッドへもぐりこんだ。



ドキドキ、と止まない心臓の音だけが、私の中でずっと響いている。

きっと、はじめは何もしてない、筈。

・・・筈、だけど。確かめてみれば、良いんだよね―――





「なまえ?」

扉が開く音がして、はじめが私の名前を呼んだ。

「・・・・・・・・・」

「眠ったのか・・・」

ドサリと、荷物を置く音が聞こえてパタパタと足音が近づいてきた。

目を閉じて寝た振りを決め込んだ私は、動くに動けない。

ふわりと香った石鹸の香りとはじめの匂いがくすぐったい。




近づいてきた気配。

さら、と前髪を掻き分けて、私のおでこにそっと触れた掌。

目を閉じているせいで、何が起こっているかなんて分からない。

余計に、ドキドキと騒ぎ出した心臓の音がばれていやしないかと心配になる。




―――え?



柔らかい、何かがおでこに触れた。

掌でも、頬でもない。

かすかに聞こえた、ちゅ、の音に、思わず目をあけてしまいそうになった。



「なまえ・・・・・・あんたは、俺が守る」



軋んだ音と、沈んだマットレスに、はじめがベッドに腰掛けていることが分かる。




「なまえ」



いつも呼ばれている名前すら、今は特別な気がする。


はじめの、本音が知りたい。


「・・・なまえ」



早くなった鼓動と、わざとらしい寝息のリズムが合わなくて、少し苦しい。

何度も降ってくる優しい声に、私の胸はきゅっとなる。



こうして、寝た振りをしている私は、ずるいのかな。



そっと、優しく私のほほに触れたはじめの掌。



ドキ。



ドキ。



ドキ。




優しく撫でていた手がぴたりと止まったと思ったら、私が気配を感じるより早く。






唇に、柔らかな感触。






ほんの1秒。

たぶん、そのくらい。



そして、遠ざかって行くはじめの足音が聞こえた。




ねえ、はじめ。





今の、なあに?








―――夢じゃ、無かったりして?







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