episode10 "言いたいことはいつも"



「おか・・・おつかれさま!」

いけない、いけない。また“おかえり”がでるところだった。

お腹空いた、と帰ってきた皆をみて、なんだか少しだけお母さんになった気分。

まあ、この合宿の間は専業主婦みたいなものか。




「なまえちゃん、大丈夫みたいだね?」

「うん、ありがとう。ごめんね」

お皿に盛りつけをしていると、沖田くんが手伝うよ、と声を掛けてくれた。

私が指示を出すと、手を動かしながら彼は小さな声で話しだした。

「別にさ、はじめくんに聞いたわけじゃないんだけど。ベースの音が、昨日より良くってさ。

何かあったんだろうなって、思ったんだよね。話せたんだ?」

今朝、はじめと少しだけ話す時間が作れて、良かった。

あのままだったら私、もしかしたら一人で帰っていたかもしれない。

まあ、事の発端は沖田くんのせいでもあるわけで。彼なりに、心配をしてくれていたのだろう。

でも、正直沖田くんには感謝してるかも。言わなきゃ伝わらないって。素直にならなきゃって思えたから。

「それで、今夜はどうするって?」






「・・・・・・・・・・・・はっ!?」






どうするって・・・・・・。



それは、話してない。




話してないけど・・・・・・あれ?





待って・・・・・・・えっと、私を守ってくれるとは言ってたけど、それは、つまり・・・・・・。





「・・・どうなんだろう!?」

「・・・・・・そんなことだろうと思った」

あきれ顔でため息をついた沖田くん。

でも、そのせいで、うるさくなりだした鼓動は、止まない。

「僕がはじめくんに聞いてこようか?」

「い、いいっ!!大丈夫!!・・・・・・自分で、聞く」

「ふーん。そんな真っ赤な顔して?」

「も、何言って・・・・・・」

「なまえ」

「は、はい!?」

急に、後ろから呼ばれてびくりと肩を震わせた。

言わずもがな。声の主はもちろんはじめだ。

「・・・・・・その、俺にも・・・手伝わせてくれ」

振り向くと、少しだけ頬を染めた彼が沖田くんの方をちらりと見ながら、そう言った。

「あ、ああ!えっと・・・あ〜・・・」




―――がんばって?




私の肩を、ポンと叩いて、耳元で沖田くんがくれた言葉に、一層増したドキドキ。

「なまえ・・・?」

「え、あっ、ごめん!それじゃ、洗い物・・・少しお願いして良い?」

「あ、ああ」

私に言われた通り、黙々と洗い物を片づけていくはじめに、私はどのタイミングで切り出そうかと、そればかり考えていた。




今日は、どこで寝るの?

今日はリビングで寝ないよね?

・・・一緒に寝ようか?



ち、ちがうっ!!最後のはとりあえず、絶対違うっ・・・!

ぶんぶんと頭を振っていた私に、不思議そうにはじめが声を掛けてきた。

「どうか、したか?」

「な・・・なんでも、ないよ?」

「・・・・・・先程、総司に何を言われた?」

「へ!?べ、別に?」

「・・・・・・」

「や、あの、はじめに関係ないとかじゃないんだけど、さ」

そう言うと、少しだけ寂しそうな顔をするから。

昨日と同じになるのが怖くて、私は作業の手を止めて、はじめの隣に駆け寄った。

「・・・ごめん。ただ、はじめに聞きたい事があったの」

「何だ」

「・・・その、・・・今日は・・・どうするのかなって」

「どうするとは?」

「・・・・・・えっと、だから、夜?」

洗い物をしているはじめの手は泡だらけ。真っ赤になったその顔は逸らすだけじゃ隠れないよ?

一生懸命、左腕で顔を隠そうとしているその様子が可愛くって、たまらない。

「・・・はじ」

わざとらしい咳払いが聞こえたと思ったら、急に赤い顔を私に向けて彼は言った。




―――あんたと、同じ部屋に行くつもりだ。




・・・え?



それだけ言って、まだ残っている洗い物を片づけ始めた。

「はじめ・・・」

「あんたに拒否権など、ない。・・・・・・な、何を笑っているのだ」

「・・・何でもない」

だって、だってね?嬉しいんだよ、私。

思わずニヤケてしまうくらい。

「・・・・・・守るためだからな」

「・・・ありがと」







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