「打ち合わせ行って直帰します、お疲れ様です」

「お疲れ〜」

あれから1週間。週3程度通っていたカフェには1度も行かず、沖田くんにも会っていない。

家の前でまちぶせとかされちゃったりするかな、なんて淡い期待をしていた自分も居たが結局彼は現れなかった。



episode2 "Calling me"



打ち合わせを終えると私は真っ先にカフェに向かった。

ライブまであと2週間。その前に「頑張ってね」って一言くらい言ってあげようかなと思っていたが

「いらっしゃいませー」

出迎えてくれたのは沖田くんじゃなかった。

不思議に思ってきょろきょろしてるとスタッフの女の子に笑われた。

「沖田くんですか?」

「あ、いやえっと、あの・・・はい」

「お休みなんです。もうすぐライブだからって、リハーサルらしいですよ?」

「あ、そうなんだ」

「みょうじさんが来てくれるって言って、張り切ってました」

そんなこと、間接的に聞かされるとキュンとしてしまう。

「は、はあ・・・」

言いながらいつものカウンター席に案内してくれた彼女にブレンドコーヒーを頼んでパソコンを開いた。

沖田くんが居ない店内はもしかしたら初めてかもしれない。

ざわざわと聞こえるお客さんの話し声とか、キッチンから聞こえる調理の音や、洗い場の音。

普段こんなに聞こえていた音に気づかなかったのは沖田くんに夢中だったからだろう。

それに気づいてしまえば途端に恥ずかしくなって、熱くなった頬を手で扇いだ。

「お待たせしました」

「あっ、ありがとうございます」

「・・・明日は沖田くんいますから」ごゆっくりどうぞ、と去っていく彼女にも、もしかしたら私の気持ちがばれているんだろうか。

私、そんなに分かりやすいかな―――




1時間ほど、来週の企画会議の資料を作ってパソコンを閉じる。

「うう、とりあえずここまでにしとこ」

凝り固まった肩を回してほぐしていると、目の前にケーキの乗ったお皿が差し出された。

「お疲れ様」

その声に顔をあげると、私が会いたかった沖田くんが立っている。

「あれ?何で?」

「ん?この間ご飯作ってくれたお礼、おごりだよ?」

「じゃなくて!今日休みって・・・」

「うん、そうだよ?でも、何処かのお節介なスタッフから連絡もらって飛んできた。会いたくてさ」

レジで作業していた彼女は、会話が聞こえたのか、小さくこちらにピースサイン。



―――ああ、やられた。



目の前のケーキを見つめながら呆然としていた私に

「食べていいよ?大丈夫、毒なんて盛ってないし・・・あ、でも。惚れ薬が入ってるから気をつけてね?」

そうして、隣の席に座り頬杖をついてにっこりと笑いかけてきた。



「・・・うん、いいよもう。惚れてるから」



ついこの前漏らした「好き」のおかげで、ふっ切れた私。

驚かされた彼に仕返しをしてやりたくて、ケーキを見つめたまま呟いた。

隣で聞こえる大きなため息。

「・・・・・・みょうじさんさ、そういうセリフ、こんなとこで言わないでよ。抱きしめたくなる」

赤くなった顔を逸らしたんだろうけど、真っ赤な耳が見えている。仕返しは大成功。

いただきます、と両手を合わせて美味しそうなガトーショコラをたっぷりの生クリームとともに一口。

「ん、んまー」

おいしいケーキに頬を緩ませていると沖田くんが思い出したように携帯を差し出した。

「ね、教えて?連絡先」

「ん、んん」

ケーキを詰め込んだ口元を片手で押えながら自分の携帯を取り出す。

お互いの連絡先を登録しながら沖田くんが呟いた。



――――この一週間どれだけみょうじさんに会いたいと思ったか。



私だって会いたかった。

会いたかったけど、どんな顔していいかわからなかったんだもん。

それを言うのが恥ずかしかったから、沖田くんの言葉を聞こえなかったことにして、今日一番言いたかった事を彼に伝えた。



「ねえ沖田くん。ライブ、頑張ってね?」


「ありがと。みょうじさん」

―――ライブ終わっても、ちゃんと待っててね?

耳元でささやかれたその言葉は、一体何の約束のつもりなんだろう。

「じゃ、僕リハーサル抜けてきてるから戻らないと」

バイバイ、と手を振って戻って行く彼を見送って、わたしは再びケーキに目を落とした。

「あ。」

ケーキごちそうさまって言い忘れちゃった。

さっそくメールしちゃおうかなと携帯を開くとメールが1通届いていた。

まさかと思ったがやっぱりそれは沖田くんからで。


***

subject:無題

from:沖田総司

今度から、下の名前で呼んで。

***

subject:Re:無題

from:みょうじなまえ

ケーキごちそうさま。

美味しかったよ。

ライブ楽しみにしてるね、総司。


***








「どうした総司?顔真っ赤だけど?」

「平助、どうしよう僕嬉しすぎて今なら何でも許せるかも」

「はあ?・・・うーんと、じゃあ・・・腹黒エロ大魔・・・ってぇな!許せるっていったじゃんか!」

「ごめんごめん」

「一君、総司がニヤけてて気持ち悪ぃよ」

「気にするな。大方さっき抜けた諸用と関わりがあるのだろう」

「女かぁ?」

「あと2週間で彼女になるけどね」

「2週間・・・?ライブの日に告んのか、何する気だ?」

「大丈夫だよ、誰にも迷惑掛けないから」








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