episode13 "林檎落花"



「んんーーっ・・・・・・、はあ」

こんなに疲れてるのに、やり切った感がまるで無い。

指を絡ませた掌を、ぐっと上にむけて伸びをしてみても、結局気持ちが良いのは一瞬で、だるさしか残ってない。

「・・・お疲れさま」

そして、きっと今日一番負担を掛けてしまった彼女も、いつもは見せない疲れた顔をしていた。

「ありがと」

「・・・んー?なにがー?」

ガサガサと、リュックの中から携帯を取り出してメールを確認しているのだろうか、こちらを見ずにそう言った。

「僕が来るまで、大変だったでしょ」

「・・・ランチタイム一人でまわしてると思えば別になんてことないよ」

「あはは、頼もしいや」

先に帰るねと言っていた彼女が裏口を出た時に、一瞬ざわついた声が聞こえたのは、間違いじゃない。



「あーあ。・・・・・・アンコールなんて、いらないでしょ」




「ソウジくん!!」

「やだー、私服もかっこいい!」

「写真っ、一緒に撮ってください!」



「あーーー、ごめん、皆で一斉に喋らないで貰える?いくら耳が良くても、聞きとれないよ」




“何があっても、ファンには、疲れた顔を見せない事”




「はいはい、じゃあ写真撮ったらみんなちゃんと帰ること」



人ごみから距離を置いて僕を見ていたあの子は、面白そうに笑ってた。

“ざまあみろ”って?

ねえ、何を考えてるのか教えて。






「ちょっ・・・どうしたの?」

やっと解放されて家に帰ってきた頃には日付けが変わってた。

おかえりと迎えてくれた彼女を見たら、さっきまでの疲れが飛んでしまうくらい僕は、幸せな気持ちになる。

「やっ・・・」

「やじゃない」



けれど、もやもやは消えないんだ。



「・・・なんで?」

「なんでも」



どうしてあの子があんな事したのか。



「・・・・・・大好きだよ、なまえ」




愛しい君に口付けを落としてみれば、照れた顔しながら「私も、大好きだよ?」と僕を安心させるように優しく頭を撫でてくれた。




「それ以上の、理由なんて・・・いらないでしょ」



僕は君に抱きついて、しばらくその、首筋のやさしい匂いを嗅いでいた。








「それって、クビってことで間違いないですか」

話があると、店長にスタッフルームに呼び出されてみれば、遠まわしに“近所からの苦情”だの、“本部からの圧力”だの、

彼なりに気を遣ってくれたらしいその言葉を聞いているのが面倒で、自分からそう言った。

「・・・・・・仕方ないだろう。お前のせいで大勢に迷惑がかかっているんだ」



―――僕のせい、ね。



CMがオンエアされてから2週間後、僕はアルバイトをクビになった。







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