付き合い始めた頃、招待で入れてあげられるライブなのに

「毎回だとなんか悪いからチケット買わせて」って言って聞かないから、しぶしぶ前売りチケットを君に売った。

ライブ当日開演ギリギリに来た君は、出ない当日券を待っているファンの子にチケットゆずって、家に帰って大泣きしてたの知ってるんだから。

隠したつもりだろうけど、いつもより腫れぼったい瞼がそれを物語っていた。

もっとちゃんと自分に優しくなって欲しい。

周りに気を遣ってばかりだと、そのうち、自分がいなくなっちゃうんだからね?



episode9 "Fall"



「ねえ総司?一緒に住もうか」

君が急に立ち止まるから、繋いでいた手がするりと離れた。

聞こえた言葉が信じられなくて、僕もまた、呆然と立ちつくし君を見つめた。

「え?」

「だから、・・・・・・」

何度も言わせないでと言いたげに、頬を染めて目を逸らす。

聞き間違いなんかじゃない。君のそのリアクションがそう言ってる。

一緒に住みたいって?

だってそれって、僕とずっと一緒に居たいって事で、あってるよね?



―――それ、反則。



僕は強引に君の手を取って、見慣れた景色の中マンションへと急いだ。

「ちょっ・・・総司?何!?」

初めて君が甘えてくれたみたいで、たまらなく嬉しい。

ドキドキと跳ねる鼓動が、僕を一層おかしくさせる。

もっといろんな事を言葉にして欲しい。弱音も吐いて欲しい。

・・・もっと言えば、愛してるって言って欲しい。

それでも、いつだって自分の中に思いを閉じ込めてしまう君はそんな事、言ってくれないんだ。

だけど、人生の先輩でもある君を諭すような真似なんて僕には出来ないし。

その壁は、どうしたって越えられないと思う。



でも今、君は「一緒に住みたい」と言ってくれた。

それだけで僕はこんなにも満たされてる―――



なかなか来ないエレベーターに少し苛立ちながら、繋いだ君の手を強く握った。

「総司、どうしたの」

返事をしない僕を不思議がって君は言う。

すると機械的な音がして、到着したエレベーターがゆっくりとその扉を開けた。

乗り込んで行き先階数のボタンを押すと、僕はそのまま君をギュッと抱きしめる。



―――君にも、この満ちた思いを届けたくて。

僕の“愛してる”が伝われば良い。



目的のフロアに着いた事を知らせてまたエレベーターが開き、君の部屋へ急ぐ。

この間貰ったばかりの合いカギで扉を開くと、僕は君を強引に押し込めた。

「総司、何?どうっ・・・」

ごめん、今の僕はそんなの説明してる余裕ないや。

カチャリと中から鍵を掛けると、靴を脱ぐ時間も惜しくて玄関で君の唇に噛みついた。

さっき飲んでたコーヒーの香りがまだ残ってる。

「ん・・・・・・」

僕の行動を不審がりながらも、キスを受け入れてくれる君が漏らすその声に、浮かされる。

「はぁ、ん・・・っ」

一瞬君が唇を離して呼吸を整えようとしたのも、だめ。逃がさないんだから。

すぐにまた舌をねじ込んだ。

僕の耳をくすぐるその可愛い声を、もっと聞かせて。

厭らしい音をわざとらしく響かせながら、君の聴覚も刺激する。




―――愛してる、愛してる。




ゆっくりと唇を離して、君の首筋をきつく吸い上げようとしたらさすがにそれは止めてと怒られた。

「が、学生じゃないんだからっ!キスマークつけて仕事になんて行けないよっ」

着ていたブラウスのボタンを二つ三つ、外して。

「ちょっ、だからどうしたのっ」

胸の谷間に紅を咲かせた。色の白い君の肌には、すぐにくっきりと綺麗に浮かぶ。

「んっ」

それに音を立てて口づけて上目づかいで君を見つめると、恥ずかしそうに聞いてきた。

「もう、なに?」

熱を孕んだその瞳が、やっぱり僕を誘うんだ。

「・・・・・・ねえ、なまえ?どうして欲しい?言って」

「どうって・・・・・・さっきの返事、聞かせて?」

「それは後で言うから、ホラ、この先、どうして欲しい?どうされたい?」

「なっ・・・」

「言ってくれなきゃ、僕帰るよ?」

「・・・好き放題しておいて、そんなのずるい」

「いつもの余裕、無くなってる」

ニヤリと笑う僕に、真っ赤になって君は言う。

「私がそういうこと言えないって知ってるくせに」

「そうだよ?でも僕は、君を好きだと思うから好きだって言うし、守りたいって思うし。気持ちよくさせてあげたいって思う」

「やっん・・・」

乱れたブラウスの隙間から手を入れて君の肌に触れる。

「どう、シて欲しい?」





―――プルルル





「そ、総司?鳴ってる」

「いいの、気にしないで?」


プツ―――プルルル


「ねえ、出なくて良いの?」

「・・・いい」


ルルルルルルルル


「もうっ!誰!?」



【ひじかた】


放り投げた鞄の中をごそごそとあさり、やっと見つけ出した携帯のディスプレイに表示された名前に、がっくりとうなだれる。

何邪魔してくれてんの・・・・・・

「・・・はい」

『遅ぇ!!』

キンと耳に響くほどの大きな声で怒鳴られ、思わず携帯を耳から遠ざけた。

「僕、今忙しいんですけど?」

『なんだ?せっかく良い仕事取ってきたってのに、気が乗らねぇか?断っても良いが―――』

電話までしてくるって事はよっぽど大きな仕事なんだろうと思う。

「何ですか?聞くだけ聞きますよ」

『ったく、素直じゃねえな。CMのタイアップが決まった。それと、少しだがライブ映像も使いたいと言ってくれている』

「・・・・・・は」

『急で悪いが明日朝10時からそれに関して打ち合わせをする事になった、遅れんなよ』

「ひじ・・・」

プツッ・・・ツーッツーッツーッ―――




「・・・よかったね?」

「・・・聞こえた?」

コクンと頷いて柔らかく微笑んだ彼女を、力いっぱい抱きしめる。

「い、痛いってば・・・」

「だって、どうしよう・・・嬉しくて・・・」

ぎゅう、と君を腕の中に閉じ込める。もう、このまま溶け合って一つになりたい。

何も言わずに僕の頭を優しく撫でてくれた、君が愛しい。

言わなくても君は、僕に伝えてくれてるんだ。

おめでとう、って。がんばってね、って。今まで、よくがんばってきたね、って。




―――一人では無理でも、二人でなら、この壁を壊せるかな?



僕がこぼした涙は、君に気付かれないように、拭っておいた。








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