親戚の集まりというのは、どうして最終的に、結婚の話に流れ着くのだろうか。

「なまえちゃんもねえ、そろそろでしょう?」

「はあ・・・まあ、」

苦笑いを返すことしか出来ないここ数年。


・・・・・・むしろ、先ほどの答えは私が一番知りたい。







帰りの新幹線。

一人で何度これに乗っただろう。

周りから聞こえるはしゃぐ子供の声や、泣き出す赤ちゃんの声。

“家族”って、良いなあ。と羨ましくなる瞬間。

数えると本当に驚いてしまうけれど、高校の時から付き合っているからもう、10年経ちそうだ。

“結婚”の二文字を出すと、かわされる。流される。・・・焦らされる。


『そんなに焦ってするものでもないでしょ?』

『・・・別に結婚に焦ってるわけじゃないけど』

『じゃあ、良いんじゃない』


これが理由で喧嘩になったことももちろんあるけれど。

結局私が寂しくなって、ごめんなさいって謝るパターンだ。



「はぁ・・・」



頬杖をついて、流れる景色を眺めながら溜息をつくのも、何度目だろう。

毎回毎回、同じ気持ちで総司の元に帰っている気がする。

一度だけ実家に挨拶をしに来たことがあるけれど、それっきりだ。

確かに私もどうしていいやら、気を遣いすぎて疲れた記憶しかない。




「もう、いっかなあ・・・・・・」





「ただいまー」

「・・・おかえりー」

「あれ・・・平助くん?斎藤君も・・・来てたんだ」

よいしょ、と重たい荷物をリビングに下ろせば、明るい笑顔が返ってきた。

「お邪魔してまーす」

「帰ってくるならメールくらいすればいいのに」

「・・・新幹線乗るよってメールした」

総司の言葉にカチンときて、結局私も跳ね返してしまう。

「夫婦喧嘩とか羨ましいな!・・・な?」

「平助・・・」

「・・・残念ながら夫婦じゃないですから!」

「あ、えーっと・・・」

「ごめんね、二人共」



寝室の扉をパタリと閉めて、私はベッドにダイブした。

私がこんなだから、二人にもう帰るように伝えているんだと思う。



「ばか、ばか・・・。私の、ばか・・・」







「ねえ・・・君さ、僕のこと、好きなの?」

「・・・・・・は、えっ!?な、なに言って・・・」

クラス替えの時だった。

初めて総司と話したのは。

「あれ、違った?君に見られてる気がしたんだけど」

彼のことは1年の頃から知っていた。

いつもギリギリに登校してくる彼を、こっそり見つめていたのは事実。

離れの弓道場から戻る時に、ちらりと剣道場を覗いては、彼の姿を探していたのも事実。

「私は別に・・・・・・」

はい、そうです。なんて簡単に認められるような事でもない。

むしろ、頷いてしまえば告白をしたことになってしまう。

「そっ・・・そういう沖田くんの方が、私を見てるんじゃないの・・・?」

そんなわけないのに。私が勝手に、好きなだけなのに。

一人で思っていた、だけなのに―――

「・・・・・・・・・ああ、」

「・・・?」

「そうかも」







「・・・・・・ん、」

「おはよう」

「・・・・・・あれ、今何時・・・?」

「三時」

こんなタイミングで出会った頃の夢なんて―――

「・・・・・・うー・・・ん・・・」

枕に顔をうずめて、ああそういえばメイクを落とすの忘れているなと気が付いて慌てて顔を上げれば、総司がやれやれ顔でこちらを見下ろして溜息をついた。

「・・・何?言いたいことあるならはっきり言ってよ」

顔を隠すように手のひらで覆って、ゴロン、と天井を仰ぐ。

すると、私のその腕を解いた総司が、私の顔を覗き込んだ。



「・・・・・・好きだよ」



「・・・・・・え・・・はっ・・・!?」

「どうしてそんなにびっくりするの?」

もぞもぞ、とベッドに潜り込んできた総司が不思議そうに言った。

「・・・あーあ、ひどい顔」

クスクス、と笑いながら私の頬をさらりと撫でた彼の手。

それがあんまり優しくて、なんだか懐かしくて。

それから、さっきの“好き”に、私、



ドキドキ、してる。



もう別れてしまおうかと考えた数時間前。

それなのに、たったの一言でこんなにも心が震えるのは多分、総司だからだ。

「・・・ばか」

「それ、僕に言ってるの?あんまり汚い言葉使うと、その口塞ぐよ?」

「・・・ばーか」



キスをして欲しいだなんて、言えるわけない。

10年も一緒にいて、今更そんなこと、恥ずかしくて言えない。

私は、ずるいのだろうか。







長い、長いキスのあとで。

久しぶりに甘ったるい、そのキスのあとで。




「ねぇなまえ・・・結婚しようか」



さらりと言ってしまった彼に、私は驚くしかなかった。

「したいって、言ってたじゃない」

「ちょっ・・・え?いや、それは、言ったけど、なんで急に・・・」

半端ないほどの心臓の速さに、息が苦しくなった。

言って欲しい、ずっと待ってたその言葉だったはずなのに、いざ言われると、単純に喜んでいい問題ではない気がする。

「急じゃ、無いんだけど」

「ま、待って?ちゃんと話そう?」

「・・・・・・嫌なの?」

「そうじゃ、なくて・・・びっくりして。ど、どうして良いのか、えっと・・・」

「ずっと、考えてたんだ。ある程度お金が貯まってからっていうのとか、昇進決まったらとか・・・新しい家、決めたらとか」

「・・・・・・なんで?」

「なまえ?」

「どうして何も言わないの?相談ぐらいしてくれたって、」

「それは、ごめんね、でもこういうのって、なんていうか、カッコつけたいっていうか・・・」

「・・・・・・もーー・・・、似合わないことしないで」

「・・・そうだね、本当は言おうかなって何度も思ったんだけど、言えなかった。何もない僕に、ついてきてくれるか自信がなくて」

「総司・・・」

私が知っている総司は、こんなに大人じゃなかった。

いつの間に―――ああ、どうしよう、こんなのただの惚気だけど。私、愛されてるんだな。

「それで、返事は?まだ聞いて無いんだけど」

ふてくされたその頬は、ほんのりと、染まっている。

ああどうしよう・・・可愛い。



どう言えば、喜んでくれるだろう。

単純なイエスを待っているわけではないと思うし。

私も実は、プロポーズされた時の返事を、ずっとずっと、考えてた。


「・・・・・・いっちばん楽しい青春時代を総司に全て捧げたんだから、責任取れ・・・ばか」

「あ。またバカって言った・・・」

「うん、言った」

「じゃあ、お仕置き―――」





名もなきハッピーエンド




(子供部屋、2部屋あるんだよ、良いでしょ)

(完成っていつなの?)

(えっと、来年の・・・・・・あ、じゃあ今から仕込まないと)

(・・・!?)




END


(NEXT あとがき→敬子さまへ!)

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