土方さんの家でふたり、晩ご飯。
“うまかった”と、笑顔で褒めてくれた彼にドキドキしたのは本当で。
そのとき。私に惚れたと言っていた彼の言葉を思い出して、はっとした。
・・・・・・私は、彼のことを、どう思っているんだろうか。
自分のことを好きだと言っている男の人の部屋に戻ってきた、ということは。
私にもその気持ちがあるのだと、彼にそう解釈されてもおかしくはないだろう。
「なまえ!昨日大丈夫だった!?」
「え・・・・・・な、何が」
出社するなり、心配そうな顔をして昨日一緒に合コンに行った同僚が迫ってきた。
「まさか合コンをあんなに嫌がってたなまえがお持ち帰りされちゃうと思わないから私心配で・・・」
「お、お持ち帰り!?ないない、違うってば!!!」
必死で否定して、私はドサりとバッグを自分の席へと置いた。
なんだ、そうなの、と心配していたと言った割にあからさまにがっかりした様子の彼女が席に着くのを眺めながら、私は羽織っていたコートを脱いだ。
・・・・・・違わないこともない。
けど、別に土方さんとは何もなかった。
私にどうこうするでもなく、ご飯の片付けを終えた私を、今度はちゃんと送ってくれた。
正直、連絡先くらい交換するのかと思っていたけれど、それもなかった。
彼は一体、どういうつもりなのだろうか。
・・・キス、したくせに。
「なまえ・・・?」
お昼休み、同僚と社食にやってきた。
ぼんやりとメニューを眺めていた私の顔を覗き込み、彼女は私の名前をつぶやくように呼んだ。
「あ・・・ごめんっ、私日替わりにする!」
「じゃあわたしも!」
値段の割に美味しいと評判の社食は、毎日満席状態。
取っておいたテーブルに、美味しそうなご飯の乗ったトレーを置いて席に着いた。
「そっちは・・・原田さん、どうだったの?」
いただきます、と手を合わせた彼女と目があった。
「・・・・・・とりあえずね、連絡先交換しようって、」
まあ、普通はそうなるだろう。
・・・・・・あれ。
なんか、もやもやする。
「・・・よかったじゃない」
「でもメール、原田さんから来なくて・・・」
あからさまに肩を落として溜息を着いた彼女。
本気で悩んでいる、という顔をしている。
「そっか。自分からはしないの?」
「な、何て送ったらいい!?だって・・・がっついてると思われたくない・・・・・・けど、できることなら付き合いたい!」
「・・・・・・あ、はは」
正直で、素直な彼女が羨ましいと思う。
「ねえ〜一緒に文章考えてー」
「え、私が!?・・・いや、わかんないよ」
「・・・・・・じゃあ、なまえも巻き込んでダブルデートの約束取り付けちゃうから」
「ま、ままま待ってっ!!なんでそうなるの!?」
「・・・じゃあ、一緒に文章考えてくれる?」
「・・・・・・う、うん」
原田さんにメールを送信した彼女は、終始そわそわしながら午後の仕事をこなしていた。
デスクの上に置いた携帯が震えるたびに、彼女も驚きでびくりと震えていたし。
その様子がなんだか可愛いなと、彼女には悪いけど笑ってしまった。
「え・・・・・・」
「だから、ごめんって(ハート)」
合わせた手のひらを左頬に添えて、首を少し傾けるその仕草は、確かに可愛いと思う。
さて、今日の仕事もおわったぞと、帰りに借りる海外ドラマのDVDのことを考えながらワクワクしていた私に、未だ座ったまま、見上げるように彼女は言った。
“結局ダブルデートになっちゃった”
―――うそ。
そうならないようにと、彼女に協力してメールを一緒に考えたはずだったのに。
話が違う、と彼女の両肩を掴んで揺さぶっても、もう取り付けられた約束を、断れる嘘も思い浮かばなかった。
体調がすぐれないからと、当日ドタキャンしてしまうのもありかもと思いつつも、それでは彼女を一人にしてしまうことになると、しぶしぶ私は行くことを決めた。
・・・しぶしぶ、と言ったけれど。
もちろん彼女にも、今回だけだからね、と念を押して置いたけれど。
実は、ダブルデートの相手が土方さんだと聞いてから、私はとても楽しみにしているようで、その日の話題が上がるだけでドキドキしてしまう。
どんな顔して会えばいいか。
鏡の前に座る回数が、最近すごく、増えた気がする。
土曜日。
原田さんが予約してくれたという店で19時に待ち合わせ。
私は同僚と先に合流するために駅に来ていた。
「・・・・・・はぁ」
さっきから、早くなっていく鼓動が苦しくて、何度目かの溜息を付いた時だった。
「・・・そんなに気が進まねえなら止めときゃいいだろうが」
改札前の柱に寄りかかっていた私の、横から掛けられたのは、あの日聞いた声と同じ。
そしてそれは、私がもう一度聞きたいと思っていた声。
「っ・・・・・・」
でも、ちょっと待って。
まだ、どんな顔して会うか決めてないの。
心の準備が、できてないの。
だから―――
「・・・・・・土方、さん・・・」
俯いていた私の視界に入ってきた、彼の靴。
近すぎることに驚いて、ゆっくりと顔を上げた。
どうしよう、どうしようと思いながら。
「馬鹿野郎・・・なんて顔してやがる」
一体、私はどんな顔をしてるんだろう。
“馬鹿野郎”と言われるような、間の抜けた顔でも晒しているんだろうか。
彼の瞳に私は、どう映って―――
「土方さん・・・・・・?」
「行くぞ」
・・・・・・・・・え?
私の腕を掴んで歩き出そうとする彼に、慌てて言った。
「あのっ、私・・・友達を待って・・・」
「原田と二人にしておけばいいだろうが」
「や、そういいうわけにはっ」
「・・・・・・原田には伝えてある」
「え!?」
「何で俺が待ち合わせの時間よりも早くここに居ると思ってやがんだ」
「ぐっ・・・偶然?」
深い、ため息が聞こえた。
私はそんなに間違った答えを言ったつもりはないんだけれど。
「んなわけあるか。お前の待ち合わせ相手も、全部知ってる」
は・・・・・・
「だから、」
もう一度あなたに会えたら
「誰にも遠慮なんかしねえ。お前を俺のものにするって、決めた。いいから、付いて来い」
強引な彼は、私が想うよりも何倍も、私を想ってくれていたみたいです。
「・・・・・・遠回りでも、寄り道でも、いいんですけど、ちゃんと、」
ぎゅ、と彼の手を繋いで、もう一度彼を見上げた。
「ちゃんと、連れてって下さいね」
END
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