春うらら。まさにそんな言葉がぴったりな、5月の中旬。

上着も要らなくなった気温に、女子の間ではダイエットの話題が増える季節。

「彼氏ほしい」とそれはイコールで結びつけられて、延々とその話を繰り返す。



束縛シガレット



講義が終わってから30分経った頃。

図書館での調べ物を終えて一息ついていた私に、彼は喧嘩を売ってきた。

「ねえ、それ似合わないよ?」

大学の喫煙所で失礼な言葉を放ったのは、”沖田総司くん”

「・・・・それ私に言ってる?」

「他に誰もいないでしょ」クスクス

初めて話すはずなのに、遠慮も知らないこの男は大学ではちょっとした有名人。

今日の合コンの待ち合わせ時間を確認するために、友人からのメールをたどっていた時だった。

「せっかく綺麗な顔してるのにさ」

入学したての頃、講義では彼の周りの席が瞬時に埋まるという噂を聞いたが、

それが面倒になったのか、最近ではきっちり5分遅れて講義に来るようになったらしい。

代返を友人に頼んでいるあたり、しっかりしてるなと思う。

彼とは学部も違うし、講義もかぶらないので正直初対面。こんな馴れ馴れしい・・・

否、良い意味では人懐っこいと言うのだろうか。

悪びれもせず、ねえ?と首を傾けて私の顔を覗きこんできた。

「・・・・・・その言葉、そのままあなたに返します」

「それはどうも」

一体どういうつもりなんだろう。

タバコが似合わないのは自分が一番よく知ってる。

ちらりと腕時計を見やると、また彼が声をかけてきた。

「待ち合わせ?」

「そうだけど。何?」

「いや、僕もさ、今日このあと予定があるんだけどそれまで時間が空いちゃっててさ」

要するに暇なんだこの人。かまって欲しいのか。・・・面倒くさ。

もちろん彼がイケメンだということを否定はしないし、自分もイケメンは好きだが、

彼のこの馴れ馴れしさがちょっと苦手みたいだ。

「なんかさ、合コンに誘われちゃって。断ったんだけど僕が行かないと女の子が来ないんだって」

「へー、すごい自信。女の子全員落とす気?」

「それはさすがに遠慮したいかな」いくら僕でも、同時に相手にできる人数は限られてるからなー

そうして笑う彼の言葉は冗談に聞こえない。モテるのも大変なんだろうな。

点けたばかりのタバコがもったいないから、とりあえず吸い終えるまで彼に付き合うことにした。

「・・・ん?今日合コンなの?偶然、私も」

「うそ、何処で?」

「なんだっけな・・・駅前のさ、ほら最近できた・・・」

探し当てた友人のメール画面を彼に差し出す。

『リストランテ オオトリ』

「あはは、一緒だ」

「なんだ、同じ大学の子だったんだ・・・確認すればよかったー」

「何それ、僕じゃ不満なわけ?」

「・・・違うよ」

違わない。最悪大学生でも良いけど、せめて違う大学にしてよ・・・。

思いっきりため息をついているわたしを見て

「僕は君みたいな可愛い子が居るなら、行く価値あるかなって思ったんだけどな」

「私は行く気がなくなったかも・・・」

吐きだしたタバコの煙を見つめて、一瞬ぼーっとしていたら、顎を引かれたかと思うと急に彼の顔がどアップになっていた。

「え、何?」

「行きたくさせてあげよっか?」

「ちょっ・・・」

「なんて、ね?」

「・・・信じらんない」

寸前で解放されると、したり顔の彼に見下ろされていた。

不覚にも、ドキドキとしている自分が恥ずかしい。

急いでタバコの火を消すと、嬉しそうな声色で彼が言った。

「ドキドキしたでしょ」

やられっぱなしは悔しい。だって今、私は彼の手の中で転がされている状態なんだもん。

喧嘩売られて、からかわれて、ドキドキさせられて。そして彼は余裕の笑顔で私を見ている。

それでもさっきみたいな嫌な気がしないのは、もしかして彼にはまってる?

悔しいと思う理由は、そういうことだ。

「沖田くん」

彼の胸倉をつかんで、強引に唇を合わせてみせる。

「・・・っ」

驚いたらしい彼の表情を薄目開けて確認しようとした途端、割り込んできた舌の感触に、またドキドキしている私。

「はは、タバコ臭いや」

「ねえ、どうしてそんなに余裕なの?ずるい」

「余裕に見える?君を落とそうと必死なんだけどな」

「は?」

「みょうじなまえちゃん?」

・・・あれ?私名前・・・

「何で?」

「だって、君が来なきゃ行かないって、誘わせたの僕だもん」

ああ、全ては彼に仕組まれていたんだ。

私に会いたかった沖田くん、沖田くんに会いたくて私を呼んだ友人・・・これって、どうするのが正解?

「じゃあ、この後どうしたらいいと思う?」

「うーん、報告しに行こうか?僕らさっきキスしましたって」

「・・・ばか」

「あはは、ひどいな。もういいよ、君が行きたくないなら僕も行かない」

「まって、それはそれで気まずいけど・・・!!」

そんなことしたら後に友人から攻め立てられる。女の世界は恐ろしいんだ。

「じゃあ、行って早々ばっくれよっか!」

「もーー!ほんっと自分勝手!」

「うん、知ってる」




何事もなかったかのように参加するって言ったはずなのに、沖田くんが勝手に報告会にしてしまった。

こんな辱め受けたことない。

沖田くんは私を離してくれそうもないから、せっかくだから私も、居心地が良くなった彼の隣に居ることにした。

「だからー、タバコ似合わないって」

「やめられないんだもん、しょうがないでしょ。総司がやめてくれるなら一緒にやめる」




―――じゃ、タバコの代わりにキスにしよ?



END


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