「なまえ、飯行くか」

「あ!・・・はい、えっと・・・」

「どうした?終わんねえか?」





隙あり、あり。





付き合い始めたばかりの私たちは、今まで数人のグループで行っていたランチの時間を、二人きりで過ごすようになっていた。

一応、会社の皆には内緒という事にはしているけれど・・・まあ、たぶん、ばれているだろうと思う。

「き、今日は、外じゃなくてっ」

「社食か?俺はそれでも・・・」

「じゃ、なくてっ・・・・・・!!!」

さすがに二人分は鞄に入らなかったから、適当な紙袋に入れて、傾けないように慎重に持ってきた。

それを、彼の目の前に差し出した。

「・・・・・・弁当?作ってきたのか?」



“原田さんの為に、早起きして作ったんですよ!一緒に食べましょう!”



昨日練習したのそ台詞がまったく出てこず、コクコクと、真っ赤な顔して頷く事しかできなかった。

「・・・サンキューな」

私の頭を優しく撫でてくれる彼の大きな右手、大好き。

「あの、もう少しでキリが良くなるので・・・」

「じゃあ、第二会議室で待ってるわ。あそこなら、誰も来ないだろ?」

「・・・はい」





告白は、彼から。

言われた時は、夢でも見ているかと思った。

久々の、会社の飲み会。

入社した時から仲良くしていた、隣の友人が席を立ったところに、急に原田さんがやってきた。

「飲んでるか?」

なんて、少しトロンとした瞳がなんだかいつもの彼からは想像できなくて、可愛いなって思った。

「は、はい」

あまり、会話なんてした事無かった。

女子社員の間で、“イケメン”だと騒がれていた彼には、近づけるような理由だって、仕事上でもなくて。

「全然、減ってねぇじゃねえか・・・」

私のグラスに目をやると、じと、と私を睨んでくるから、慌てて、

「あ、や、私は・・・その・・・あまり得意ではないので」

「・・・そうか・・・ん?なんだ、みょうじ、お前・・・」

「へ?」

急に、口元に降りてきた原田さんの唇。

ちゅ、と音を立てて離れていったそれが、何を意味するのか頭が回らないのは、珍しくカクテルを2杯飲んだからなのか。

「な、何です!?」

「何って、飯、ついてたぜ?」

とんとん、と人差指で、自分の頬を指して見せる。

「あ、わっ・・・・・・やだ、」

慌てて、両頬を押さえて俯いた私に

「恥ずかしがる所、そこじゃねえだろ」

がくりと、頭を抱えてうなだれた彼。

「え?」

「・・・・・・意味、分かんねえか?」

「えっと・・・」

「お前、鈍いのな」

「は・・・・・・」

「・・・・・・そういうトコも、可愛くて好きだけど、な?」

「す・・・」

やっぱり、頭が回らない。

彼が私を好きだと言った理由も。

キスをした理由も。

何で私?

だって、接点なんて・・・。

告白されて、しつこく質問攻めしてしまったけれど、笑いながら彼は全部答えてくれた。

小動物みたいとか、頑張ってる姿とか、裏表がなさそうなところとか、笑顔が可愛いだとか、皆に愛されてるところとか。

つらつらと並べられて、それを求めた自分が、恥ずかしくってまた俯くしかできなかった。






「原田さん」

「お。お疲れさん」

窓際の、見晴らしの良いその席で、いじっていた携帯を置くと、頬を緩めた。

隣の椅子を引いて、私を座らせてくれた。

さりげなさ過ぎて、自然すぎて、時々原田さんの優しさを見逃してしまう時がある。

ありがとうございます、と腰かけると、机の上にお弁当を差し出す。

「ど・・・どうぞ」

「今朝作ったのか?」

「はい」

「早起きして?」

「はい」

「・・・俺の為に?」

「は・・・はい」

「ありがとうな」

また、優しい手が私に触れる。

包みをほどいて、お弁当の蓋を開けるその様子をじっと見つめていた。

「お、うまそ」

彼のその、リアクションにホッと胸をなでおろしたが、肝心なのは味だろう。口に合えば良いけれど。

自分のお弁当を開けることすら忘れてた。

どきどきとする胸を押さえて、ぱくりと卵焼きを頬張った彼の一言を、待つ。



「ん。うまい」


「はぁあぁ〜〜よかったぁ〜」

肩の力が一気に抜けて、机に突っ伏してしまった。

「なまえの愛がこもってるからな」

「も、もうっ!!」

恥ずかしいその台詞に、がば、と顔を上げると。

「は、原田さんっ・・・」

「ん?何だ?」

「ふふ・・・ほっぺ、ついてますよ?」

指でそっと、彼の頬についていたご飯粒を取ろうとしたら。

彼の左手に包み込まれてしまった指は、頬まで届かず。




―――俺が、したみたいに・・・取って見せてくんねえか?




「は・・・」

要するに、あれだ。

ほっぺにちゅーを求めてるのか。

「誰も、居ねえんだ、できるだろ?」

「そんっ・・・・・・」

包み込まれた指は、いつの間にか、きゅ、と彼と絡ませて繋がれていた。

ニヤリと、笑って頬を私に寄せてくる。




そっと、彼の頬に触れて、ご飯粒を飲み込んだ瞬間。

顎を引かれて、重ねられた唇。

「・・・・・・さんきゅ」

「・・・原田さん」

「そうだ、ついでに言っとくと、あの飲み会の時、別にお前、ご飯粒ついてなかったからな?」







「は・・・」





「お前みてたらキスしたくなっちまって」




「原田さん!?」




「はは、いいじゃねえか」



「よ、よくな・・・ん?・・・いい、んですかね」

「いいだろ、それで今、こうしてお前と居られてるんだから」

「・・・・・・はあ」

「それより、ほら、弁当ってあれだろ、あーん、っての、必須だろ」

「ひ、必須ですかっ!?」

なんて、誰もいないのを良い事に、意外と甘えたがりの原田さんと、真昼間からいちゃいちゃさせていただきました。

弁当のお礼な、何て、その日は原田さんの家にお邪魔する事になったのは言うまでもない事かと。









END




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