言葉のすきま


学校帰りに週2日。

それが一日置きになって。

・・・気付いたときには毎日行くようになっていた。

委員会や部活が終わってからでも面会時間はあるし、多少遅くなっても、家族には友達のお見舞いだと伝えているから何の問題もない。

それに、私がこんなに毎日行っているのに、他の面会の人と重なったりとか、すれ違ったりとかがないこともあって、なんとなくずっと居座ってしまう。


今日はどんな話をしよう。

昨日見た映画の話か、新八先生が大損した話か、斎藤君がやっぱり学年一位だった話か。

最近何かある度に、沖田くんに話したくなってしまう。早く会いたいなって、思ってしまう。




「あ、斎藤君!」

放課後、廊下で見かけた後ろ姿に声を掛けた。

「みょうじ・・・今日も行くのか?」

「うん、斎藤君も一緒に・・・」

「否、あんたと話している方が楽しそうだ」


―――え?


「俺は部活に行かねばならぬ故」


「斎・・・・・・、」

なんだか寂しそうに笑ったその背中から、目が離せなかった。









「・・・なまえちゃん」

「懲りずに来ました」

「いらっしゃい」


柔らかく微笑んだその表情に、私はまた、嬉しくなって顔が緩んでしまう。

いつの間にかこうして一緒にいることが当たり前になっていて。

過ぎる季節も、刻まれ続ける時間も、そんな当たり前が当たり前じゃなくなればいい。

こんなにも傍にいたいと、まだまだ一緒に居たいと、彼に生きて欲しいと、願う。


私が座るのも待ちきれなかったと言った風に、目をキラキラとさせながら、沖田くんが言った。


「最近さ、調子よくてね。外出許可貰えたんだ」

「わ、本当!?」

「さすがにこんなところに閉じ込められてたら、人混みでも歩いてたほうが良いやって思う」

「・・・どこに行くの?」

「あ、それなんだけど。一緒にどこか行かない?」

「うん、良いんじゃない?楽しそ・・・・・・って、え!?・・・・・・わ、私っ!?」

座るやいなや、ものすごい勢いで立ち上がってしまい、膝の上のカバンがドサりと床に転がった。

「あはは、そんなに嬉しいの?」

「えっと・・・あの・・・」


嬉しい、嬉しいに決まっている。

ただでさえ、沖田くんが外出できることが、自分のことのように嬉しくて。

しかもその特別な一日に、私を誘ってくれるだなんて―――これって、もしかしてもしかしなくても、デートってやつですか。

夢でも見ているんじゃないかって、でも夢であってなんて欲しくないけれど、もし全部夢だったら沖田くんの病気のこともなかったことになるのにな、とややこしいことを考えてしまって、ぼんやりと立ち尽くしてしまっていた。


「なまえちゃん?」

「え、あ、ごめんっ・・・えっと、何だっけ」

「酷いなあ・・・・・・まあいいや。行きたいところがあるわけじゃないんだ。ただ自分のうちに帰りたいなって思っただけ」


沖田くん家・・・・・・。


「ねえ、なまえちゃん料理得意?」

「え?まあ、人並みに・・・・・・」

「じゃあご飯作ってよ。病院のじゃない、美味しいご飯が食べたい」

「わ、わたし!?よりも、ほらっ・・・さ、斎藤君の方が得意そうじゃない!?」

「・・・一君の料理は何回か食べたことあるよ。もちろん美味しいけど・・・」

「・・・・・・?」

「言わせるの?」

「は・・・?え!?何を!?」

私のリアクションに、深い溜息をついた沖田くん。

二、三回、軽く咳払いをすると、なんとなく照れくさそうに頬を染めて、ふてくされた顔で言った。



「・・・なまえちゃんと、二人がいいんだってば」




言われた言葉に驚いて、理解した途端に真っ赤になった。

・・・多分、傍から見たらバカみたいだったと思う。

沖田くんが言わんとしていることがわからなかったから、ただ聞き返しただけなのに。



二人、病室で真っ赤になったまま、しばらく固まってた。

なんて言おう。

なんて言えば。

私がこれまで覚えてきた言葉の中から、一生懸命探し出しても見つからない。

もちろん、仲良くなるのは嬉しい。

でもそれは単純ではなくて、必ずついてくる悲しい気持ち。

沖田くんとこうして一緒に居られること、話せること、それが本当に幸せだ。

彼を知れば知るほど、好きになる。



・・・ねえ、嘘でしょう?



あなたに終わりが近づいているなんて。

このまま、笑っていてくれたらいいのに。

ずっと、傍にいられたらいいのに。

それが叶わないってわかっているのに私は・・・。



「・・・うん、わかった」



小さな声で頷くと、沖田くんが笑った。


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