「・・・あんたは、何をしている」
「・・・・・・う、うええ、ごめんなさい!」
焦げくさいキッチンと、積み重ねられたボウルやら泡だて器やらと、散乱している小麦粉とかぼちゃ。
泣きそうな私のごめんなさいを聞いた彼氏のはじめくんは、盛大なため息をついた。
「その様な顔をするな、怒っている訳ではない」
「・・・・・・だ、だってっ」
「何かを作ろうとしていたのだろう?・・・原型の見当がつかぬが」
オーブンから登場した、湯気(煙かもしれない)が立ち上るそれに目を落として彼が呟いた。
その言葉に、料理が下手すぎる自分に悲しくなってくる。
「・・・・・・こんなに散らかした上にオシャレなキッチン焦げくさくしてごめんなさい・・・」
「す、すまないっ!・・・あんたに悲しい顔をさせたかった訳ではないのだ」
俯いた私の顔を覗きこみ、両頬にさらりと触れられると、私の視界にははじめくんしか映らなくなる。
ぎゅ、と抱き締められて私の首筋の匂いを吸い込んだ彼の、唇がそのままそこへ痕を残した。
「・・・キッチンは多少焦げくさいが、あんたは甘くて良い匂いがする」
「はじめくんは、お菓子よりも私を選んでくれる・・・?」
「無論だ」
「・・・じゃあ、お菓子の代わりに私をあげるね?」
END
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