お題:土方×ビール

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「みょうじ」

「はいっ!」

呼び出されて土方さんのデスクに駆け寄った。

「・・・・・・これは昨日お前が提出した業務報告書だ」

ああ絶対何か誤字脱字とかあり得ないミスをしてるんだどうしよう嫌だなあ怒られたくないなあ、と内心そんな事を考えていた。

上司に一日の仕事内容やら進捗を報告するものなのだけど、今までも後からささいな間違いに気付いてため息をついたことはある。

けれど、こんな風に呼び出されるのは初めてだからよっぽどの―――

「今日は何月何日だ?」

・・・・・・ん?

一体何を言っているのだろう・・・、いくらなんでも私だって日付けくらい・・・日付け・・・・・・

「・・・・・・あっ!!!??」

「一日だけならみて見ぬふりをしようとしたんだがな。さすがに三日間先月のままってのは・・・」

「す、すすすすみません!!!」

わ〜〜!昨日取引先に送ったやつ日付け大丈夫だったかな私のデスクのカレンダー先月のままなのかなやばい何この最大級の恥ずかしさ穴があったらさらに深く掘って隠れたい・・・。

「まあ、色んな書類を書き間違えてる可能性も考えられるが、それよりもだ、」

「はっ・・・はい?」









私が相当疲れているのじゃないかと心配してくれた土方さんは、その日に飲みに連れてってくれた。

仕事に関してはミスをしたら怒鳴られるけど、ネチネチしないから本当にやりやすい。

そして怒った後でも普通に話しかけてくれるから、私もいつも通り接する事が出来る。

土方さんの言葉は本当に納得できるし感心することも多いし、正直尊敬してる。

(・・・と言うのを沖田くんに話したら白い目で見られたけど私、全然・・・平気・・・)

「なかなか飲み会ってのもできねえし、皆で飲みに行く機会も作ってやれねえしな」

「と、とんでもないですっ・・・!」

そんな私が今まさに、土方さんと二人きりで居酒屋のカウンターに座っているこの状況。

もちろん私の胸は有り得ないほど早鐘を打っている。

が、カウンターの向こう側に居る大将に写真撮って下さいって言いたいくらいにもはしゃいでいる(内心)。

「好きなもん頼んでいいからな」

ふっと煙草の煙を吐き出しながら私にお品書きを差し出した。

「えっ・・・いや、あの・・・」

土方さんと二人で飲みに来るのは初めてだし、正直上司と部下の関係でしかない。

冗談を言い合えるような親しい間柄でもないし、とそんな事を考えてしどろもどろになってしまう。

まじっすかやったー!とかそんな単純に喜ぶ単細胞でもないし、かと言って今のこの空気を読もうとしても読めない。

とりあえず土方さんが好きなものを頼んでおけば間違いはないだろうけど、彼は一体何が好きなのだろうか。

「・・・遠慮したらもう二度と連れて来ねえからな」

カウンターに肘をつき、ふーっ、と長く煙を吐き出してからそう言った。

二度目三度目を大いに期待している私にとって、その言葉はとても有り難い。

もちろん上司としてなんだろうけれど、彼自身がまた連れて来てやらないと、くらいに思ってくれているのがとても嬉しかったし、甘えて良いんだって思えたから。

・・・だから私は、本当に遠慮は無用なのだとそう理解した。

「えっと、じゃあ・・・刺し盛りと・・・串盛りと・・・あ、塩がいいです。それから・・・山芋のわさび漬けと・・・あと・・・ビールで。・・・・・・って、何ですか」

「・・・・・・何でもねえよ」

くつくつと笑いをこらえている土方さん。

見られないようにしているのか、煙草を持っていない左手で顔を隠してしまったから表情はうかがえないけれど。

・・・こんな土方さんは初めて見る。

今の会社で、彼のこんな姿を見たことがある人は、私以外に居るだろうか―――





「自分が飲めないのに飲みの席って、つまらなく無いですか?」

「・・・・・・飲めないんじゃねえ。飲まねえんだ」

「・・・だってウーロン茶じゃないですか」

「飲まねえやつと飲んでもつまんねえってか?」

「ちがっ・・・!」

「ははっ、冗談だよ。なに青い顔してやがる。素面で居るのは、お前の話をちゃんと聞いてやるためだ」

「へ・・・」

「それから―――この上半期に頑張ってたお前を、ちゃんと褒めてやんねえといけねえからなぁ?」


私しか知らないだろうと思ってた、後輩のミスの尻拭いとか、締切当日の書類のフォローとか、そういう地味なやつ、あの遠い席からちゃんと見ててくれた人がいただなんて、嬉しくって視界が滲んだ。

心地のいい声のトーンと、速度と。時折混じるのは、煙を吐き出す息の音と、ウーロン茶の氷の音。

周りはガヤガヤとうるさい筈なのに、他に何も聞こえない。

「頑張ったことくらい、自慢したって別に怒らねえよ。たまには褒められることも覚えろ、でないと疲れちまうだろ。誰だって、褒められたらもっと頑張る。お前もそうだろ?」

「・・・・・・は、い」

俯いて、膝の上できゅっと握った両手を見つめて、私は涙を必死で堪えた。

私は上司に恵まれている。同僚も先輩も後輩も、皆良い人ばかりだし、土方さんみたいな人が引っ張ってくれる部署だから、私も頑張りたいって思う。

「それに、絶対にミスするなとは言わねえよ。そこから学ぶことだってたくさんある。お前らがミスしたら俺が責任もってフォローしてやる」

「・・・・・・っ」

「俺の言いたい事はそれだけだ」

「あ、ありがとう、ござい・・・ます」

いつの間にか、ぽろぽろと頬を伝っていた涙を拭って、私は顔を上げた。

「と言うわけで、お前の酒を一口貰う」




・・・・・・はい?



「・・・・・・なんっ!?」

「言っただろうが、飲めないんじゃなく、飲まねえって」

「・・・弱く無いんですか」

たぶん、ぬるくなっていると思う最後の2センチくらいの私のビールを土方さんが飲み干した。

「・・・弱くて悪いか」

「いえ・・・その、」

そのほんの少しのビールで顔を赤くした土方さん。

・・・どうしよう、ちょっと(面倒臭そうだけど)可愛い。



「あと一つだけ・・・素面じゃ言えねえことがあってな」

「はい・・・?」

その赤い顔は逸らそうとせず、じっと私を見つめた。

私もどうしてか、目が離せなくて。

「俺以外の男の前で、今みたいに泣くんじゃねえぞ」



調子に、乗っても良いんだろうか。

と言う事は、こう言う事だ。


「・・・それなら、泣きたくなったら土方さんの傍に居ても、良いって事、ですか」

「馬鹿野郎・・・泣きたくなくても傍に居れば良いだろうが。なあ?なまえ」




二度目は同じ居酒屋の同じ席。三度目は、日曜日にお互い都合を付けて。

四度目は―――




END

(Special Thanks to もなか sama→少しでも楽しんでいただけると嬉しいです)


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