お疲れ様でした、といつも通りに会社を出ようとした私に声をかけてきたのは、間違いなく私の片思いの相手その人で。

「もしこの後予定がなかったら、なんだが・・・ちょっと付き合ってくんねぇか?」

これから帰って一人寂しくスーパーの値下げされたチキンを頬張る私の予定なんてもちろんどうでも良くて。

・・・むしろそんなもの、予定とは言わない。

「えっと、私でよければ・・・・・・」

「そうか、良かった。すぐ終わるからちょっと待っててくれるか?」

一体何が起こったというのだろう。

私はたぶん、いつも通りに仕事をして、いつも通りにランチに行き、いつも通りに仕事を終えた。

何か特別なことをした覚えなんてないんだけど。

だからきっと、私でなければいけない理由もないだろう。





「あの、一体どこに・・・」

会社を出て最寄駅に向かう途中、聞きたいことは他にもたくさんあった。

けれど、これから一体どこに行くのか、まずはそれを確認しておくべきだろうと、隣を歩く原田さんに思い切って聞いてみた。

「プレゼント選びに付き合って貰いたくてな・・・っと、ちなみにお前何か欲しいもんあるか?」

「え、わた、私っ、ですか!?」

「参考までに、な。そいつ、何が欲しいか全然言わねぇんだ」

なんだ・・・そりゃそうだよね。私になわけないよね。

ほんの少しだけ浮かれた心はすぐに沈んだ。

いや、こうやって原田さんが誘ってくれてることがもう幸せなんだから、それ以上何も求めてはいけないと思う。うん。

一つ嬉しいことがあったら、それよりもって欲張りになってしまう。

「そう・・・ですね」





「あっ、これとかどうでしょう?」

「ん・・・ああ、可愛いな」

結局無難なアクセサリーくらいしか思い浮かばなくって、だからピアスかネックレスか。

指輪、は・・・彼女さんのサイズがわからないといけないし、それを原田さんが知ってるかもしれないけど、なんとなく、その場所を避けて店内を歩いた。

「やっぱりあれが可愛い―――って、原田さん?」

居ると思って普通に話しかけたら誰もいなくって。

静かな店内で赤面しながらきょろきょろとあたりを見回せば、彼は避けて通ったはずの場所のショーケースを眺めてた。

「なあ、これ、似合いそうだ」

「・・・あ、素敵ですね、」

「お前ちょっと付けてみろよ」

「・・・・・・え?ああ、私でよければ・・・」

店員さんにお願いして出してもらった指輪。

9号の華奢なピンクゴールドのリングは、私みたいな指よりも、きっと原田さんの彼女さんみたいな人がしたら、きっともっと可愛く見えるんだろうな。

そんな風に思いながら、私は自分の指を眺めた。

「どうだ?」

「・・・えっと、可愛いです」

「お前だったらそれもらって嬉しいか?」

「もちろんです!」

「・・・すみません。これ、ください」

本当に私の好みで大丈夫だろうか。

いいなあ、わたしも原田さんに選んでもらいたい―――そう思いながら指輪を外す動作をすれば。

「なに外してんだ?」

「え?だって、」

「やるよ、クリスマスプレゼントだ。もちろん、お前にな」




「・・・・・・・・・は!?!?え、あのっ、原田さん!?!?」




「それつけて、メシでも食って行こうぜ」

颯爽とお会計を済ませた原田さんは、私の手をつないで店を出た。

待って、ちょっと待って?一体どこから夢だった?ランチの前?それとも後?

私はもしかして休憩室で昼寝でもしている途中なんだろうか。

「えっと・・・え!?こんな、私・・・、いただけませ―――」

「ばーか、断るんじゃねぇよ。カッコ悪ぃだろ」

「原田、さん・・・?」

「お前全然気付かなかったのか?」

「だって、そんな・・・私なんかが」

「"なんか"って禁止な。お前はちゃんと、可愛いよ」






おしまい。


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