「せっかくだから、みんなでクリスマスパーティーしようよ!?」
一週間前、バイト先でそう言った。
平助の予定を聞き出すことも出来なかったし、これなら例えば平助に予定があったとしても、誰かしらと一緒に居られるわけだから、ぼっちクリスマスは避けられる。
「いいなそれ、楽しそう!」
けれど真っ先にそう笑ってくれたのは平助で。
クリスマスに予定がなかったということに安堵した。
当日。
バイト先の居酒屋で、閉店後にコンビニで買ってきたお酒やおつまみやらを広げてみんなでクリスマスについて愚痴っていた。
もはやパーティーの雰囲気なんかではない。おかしいなあ。プレゼント交換とか提案すればよかったかな・・・。
「なー!酒足りなくねぇ?」
外は寒くてみんな出たがらないから、買い出しのじゃんけんをしたのだけど、私は見事負けてしまった自分の拳を見つめて固まっていた。弱すぎる・・・。
「・・・俺も行く。女子ひとりじゃ、重いだろ?」
立ち上がったのはまさかの平助で。
その優しさに私はゴクリと喉を鳴らした。
「あ、ありがと・・・」
「なんだよ、お前も行くならビールもう6本くらい追加で!」
「えー、じゃあつまみも買ってきて、あとなんかいい感じのお菓子」
平助がいくなら、とみんながあれもこれもと追加の買出しを頼み始めた。
「そんなに覚えらんねえって!俺のセンスで選んでくるから文句言うなよ」
そう言った平助の言葉にブーイングが起きないわけなかったけれど、それを遮るように私の背中を押してさっさと店を出たのだった。
「・・・なあ」
「うん?どうしたの」
言葉を発することすら少しためらってしまう程に静まり返った深夜。
かすれた私の声は平助に聞こえただろうか。
まるで冷凍庫の中みたいにキンキンに冷えた外の空気、私の口から白い息がほうと溢れた。
「・・・お前、ずっと彼氏いると思ってた」
「は!?いいいいいないよ!?どっ・・・どうして!?」
平助の唐突な質問に、私はあからさまに動揺してしまった。
なんで急にそんなこと聞くんだろう。という疑問と同時に、もしかして、もしかするのかなって期待してる私。
「いや・・・どうしてって、その・・・」
私の動揺が平助にも伝染してしまったのだろうか、彼も言葉につまって、あの、そのを繰り返している。
「か・・・、」
「・・・か?」
「か、わいい、から」
「・・・・っ!?!?」
一瞬、顔から火が出るかと、むしろたぶん、出たんだと思う。
「な、ななななな!?何言って!!!」
別に可愛くないし、とか、何それセクハラじゃん?とか、なんかそう言う、上手い切り返しがきっと、いつもの私なら出来たはずなんだけど。
平助と二人きりっていうことと、さらにクリスマスっていうことに意識してしまった私はもう、何も考えられなくて。
冗談言ってる可能性だってあったのに、そんなの頭の中にこれっぽっちも浮かばなかった。
大好きな人に可愛いって言われて、こんな嬉しいこと無い。
「いや、あのさ・・・!その、だから・・・っ」
ばくばくばくばくばくばく。
心臓がとまらない、いや止まっちゃ終わりなんだけど。
静まれって思うほど、鼓動が激しくなる。
「このまま2人で抜け出さねえ?」
ポケットに入れていたはずの彼の手は、私の手首をがっちりと掴んでいて。
私を見つめるその瞳も、真っ直ぐすぎて、逸らせない。
答えはきっと、一つしか許されないんだ。
私は彼のゆれる瞳を見つめたまま、ただぽつりと、返事をした。
「・・・いいよ」
おしまい。
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