「さっむーーーい!!」
大声を上げて帰宅した彼女は、おそらくブーツを脱ぐのに手間取っているのだろう、なかなか玄関から顔を出さなかった。
ただいま、疲れた声が弱々しくリビングに響いた後で、見慣れたワイン店の紙袋をテーブルに置いた。
クリスマスだからとわざわざ立ち寄ったのだろうか。記念日や誕生日、何か特別なことがある日は、そこの店のワインを購入している。
「寒かった!!ほら!!」
キッチンから顔を出した俺の頬に、ピタリと両の手のひらをくっつけると、いたずらに笑う。
俺よりも年上の彼女は、時々子供のように無邪気に甘えたり泣いたりすることがある。けれどそれはおそらく、俺の前でだけだと、思う。
俺自身もつい一時間程前に帰宅したばかりで、確かに外が寒かったことを知っているはずなのだが、先程よりも一層気温が下がったのだろう。
頬に触れた手のひらの冷たさに肩を震わせた。
その手を温めるように、自分の手を重ねて「おかえり」と言えば、頬も鼻先も寒さで真っ赤にしたまま、とろけるような笑顔が返ってきた。
俺を見つめたまま動かない彼女に、ゆっくりと近づいて、一瞬だけ重ねた唇。
「・・・ね、もう一回・・・」
ゆっくりと開いた瞳が、至近距離で俺を見上げた。その上目遣いに、心臓がうるさく響く。
その後も、もう一回と繰り返しキスを強請る彼女に、段々と口づけは深くなる。
「・・・夕飯は、後にするか?」
「・・・ん・・・」
クリスマスに仕事なんて、と嘆いていたわけではなかったが、ちょうど平日に当たってしまったのだから社会人は仕事に決まっている。
せめてプレゼントくらいは―――と、電話で取り置いていたものを、仕事帰りに慌てて買いに行った。彼女よりも早く家に帰らねばといつもより早足で。
何をあげれば喜ぶのか、付き合った当初は本当に分からなかった。何が欲しいのか、直接聞いたこともあるが「はじめが選んでくれたものなら何でも嬉しいよ」と、笑った。
けれど、できることなら彼女の欲しいものを贈りたいと思う。
先日彼女が以前かわいいと言っていたフラワーベースに花束を生けて、寝室に飾っておいた。
喜ぶ顔が、早く見たい。
「はじめ、はじめ!!どうしよう、何かあるよ!?」
寝室のクローゼットにコートをかけに行った彼女が、興奮気味に顔を覗かせた。
「・・・メリークリスマス」
そっと、彼女を抱き締めてそう囁けば。
瞳を涙でいっぱいにして、ありがとう、と背中に伸びた手が力一杯俺を抱き締めた。
「すっごく嬉しい」
「・・・そうか、良かった」
「うん、ありがとう。・・・大好き」
おしまい。
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