そこは、夏休みの海水浴客でごった返していた。

ビーチサンダルも意味がないくらい砂浜はとても熱い。

けれど、遮るものがないからか、風はとても気持ちが良くて、潮の香りを運んでくる。

海の匂いは嫌いじゃない。むしろ、景色も含めて、多分好きな方だ。

・・・・・・人がこんなにいなければの話だけれど。



「・・・よっ」

「ん・・・?」


ぼーっとしていたせいか、背後の気配に気がつかなかった。

私の隣に座った平助の髪は、少しだけ濡れている。

華奢というわけでは決してないのだけれど、背も私とあまり変わらないからか、水着姿ではいつもより細く見える気がする。


「どうした?疲れたか?」

「う、ん・・・」


遠くの方で、みんなが楽しそうに遊んでいるのが見える。そう、さっきまで平助もそこにいた筈だったんだけど。

その様子を見ているのが嫌で、視界に入る人達の人間観察をしていた。

水着なんて自信あるわけないし、あの子たちみたいに可愛くもない。

「なあ、本当は無理して来てるとかじゃねぇよな?」

あまり乗り気ではない私の様子に気がついたらしい平助がずばりと言うから、否定し損ねてしまった。

思わず泳がせてしまった目に、たぶん気付かれたんだ。

「・・・マジか」

ふん、と小さく鼻を鳴らした。

イライラしているような風にも、呆れた風にもとれるそれは、どういう意味なんだろう。

背中を丸め、あぐらをかいていた片膝に頬杖をつき、うーんと何かを考え始めた。

私は変わらずに膝を抱えて、縮こまった。

決して心配させたいわけではない・・・・・・心配してくれたら嬉しい、とは思うけれど。

この沈黙が苦しくて、私は慌てて口を開いた。

「だ、だって・・・言えるわけ―――」

「よし分かった!」

平助は、バチン、と勢いよく両の太ももを叩き、私の言葉を遮って立ち上がった。

「来てよかったって思わせてやるから、行こうぜ!」

思わず、はい、と言いたくなるほどの素直な笑顔に、私は。

「べ、別に後悔してるとかじゃ、ないし・・・みんなのとこには行きたくない・・・」

ほら、ひねくれてる。

ダメだって分かってるのに、せめて平助の前では可愛くありたいって思うのに。

「・・・ああ?だからさ、あっち」

小首を傾げた平助が指を差した先。






「うおおおおおお!やっぱ夏はこれだよな・・・っ、くーーー!きた!きた!いってぇ〜〜〜」

先程まで口に運んでいたストローのスプーンを、痛みに耐えながら何度も氷に突き刺していた。

分かりきっている、急いで食べれば頭が痛くなることくらい。

「・・・平助って、馬鹿でしょ」

「・・・あ、よかった、やっと笑った」

変わらずに頭は痛んだろう、苦い笑顔がこちらに向いた。

やっと、というのは、待っていた、ってこと?私が笑うのを?

「だからさ、なんつーか・・・・・・笑ってたほうが、いいっつーか」

そう言うと、くわえたストローをぶらぶらさせている。

黄色い線の入ったそれは、なんだか平助にとても似合っていた。

そうか。さっきのも、今のも。

優しいな、このやろう。


「・・・・・・平助のばーか」

「・・・うっせーよ。ほら、お前も早食いして頭痛くなれ!」

「は!?そんなことしないし!ちょっと、何!」


本当の、本当は。

みんなと一緒に、来たくはなかった。



でも、平助と二人で居られる時間があるかもしれないって、ほんの少し期待して来たんだよ。

だから今、この瞬間が、とても幸せで。

これだけで―――



「な、来てよかっただろ?」

「・・・ねえ、何さりげなく私のかき氷食べようとしてんの?」

「あ、バレた?」


ゆっくりと伸ばされた腕がピタリと止まった。

へらっと緩んだその顔に、私もつられて頬が緩んだ。


「・・・眩しいな」

「・・・は?ここ日陰ですけど」

「お、お前の・・・笑顔が、だよ」

「・・・・・・」

「だーーー!くそ、言うんじゃなかった!左之さんのバカ!くっそ、なんだオレ恥ずかしすぎんだろ!!」

「・・・私には、なんでも信じる平助のその純粋さが眩しいよ・・・」

「何うまいこと言ってまとめてんだよ!?」

「ねえ、平助」

「なんだよ!これ以上バカに―――」





「・・・来てよかった。ありがと」




END


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