・・・・・・飽きた。
今にもシャーペンを放り投げてしまいそうなくらい。
それなのに。
何なんだろうか、この斎藤の半端ない集中力。まじでついて行けん。どうしよう―――
ちら、と顔を上げれば、視線に気がついたらしい正面の彼と目があった。
「どうした?」
「は、はいっ!?します、宿題します、いやしてます!大丈夫です!」
教科書で顔を隠すようして慌ててそうつくろってみても、きっと斎藤にはバレバレだろう。
漫画や雑誌、服、気がついたらいつも散らかってしまう部屋を、やっと昨日、きれいに片付けた―――明らかに持ち物よりも収納力のないこの部屋の、クローゼットにぎゅうぎゅうに押し込めただけだけれど。
宿題を教えてくださいと私が言ったわけではない。
もともと3人だったはずなのに、予定が入ってしまったからと沖田が昨日斎藤だけに断りの連絡を入れたらしい。
もちろんそれを知らされていなかった私は、きっちり待ち合わせ時刻に到着していた斎藤と、沖田を待つ予定だったのだが。
『・・・え?ちょっ、斎藤?』
斎藤は、沖田から私にも連絡が回っていると思っていたらしい。
「あんたは、嘘が下手だな」
「・・・う、」
ふう、と軽くため息をついた彼がペンケースにシャーペンを戻した。
「・・・斎藤?」
「少し、休憩するか」
「・・・やった!!よし斎藤、アイス!アイス買い行こう!!」
エアコンで少し冷えた身体が外に出た瞬間に、あ、ちょっと暖かい。そう思うのはいつも一瞬で。
たったの数分歩いただけなのに、汗だくだ。
つう、と胸の辺りを汗が伝う。
暑い、そう思っているのは私だけなのではないだろうか。
隣を歩く斎藤は、いつもと変わらずに涼しい顔をしている。
「・・・どうした」
「いや、斎藤って暑くないのかなって」
「暑いと口に出したところで何も変わらぬだろう。余計に暑くなるだけだ」
「ふうん」
もっともな答えが返って来た。
そんなどうでもいい会話をしていれば、あっという間に目的のコンビニにたどり着いた。
自動ドアが開くと、ひんやりとした空気に包まれる。
「っはー、天国!」
「・・・・・・」
呆れたように物言わない斎藤は、そういえばアイスとかお菓子とか食べてるイメージなかったけど。
「ねえ斎藤、どれにする?」
「俺はいい」
「え!なんで!せっかく来たのに?」
すると斎藤は、大きな、冷凍のガラス扉の中から氷の入ったカップを取り出した。
セルフで淹れられるコンビニのアイスコーヒー。
なるほど、・・・そっちか。
「・・・ねー、斎藤、一口」
「・・・・・・」
カップアイスを買った私は家に帰ってからじゃないと食べれないなあ、間違えたなあ、そう思って斎藤が飲んでいたアイスコーヒーをねだれば、こちらにストローを向けてくれた。
それを咥えようと斎藤に近づけば、あと少しのところで、ひょい、とそらされた。
「斎・・・!」
なんて意地悪なことをするんだ!と怒ろうとした瞬間に、肩を引き寄せられた。
住宅街の細い道。
ガードレールもない、ただ、白線で仕切られた車道と歩道。
二人並んで歩くには狭いその道を、ほんの少しだけはみ出して歩いていたらしい。
後ろから来た車が通り過ぎたのを確認すると、斎藤が「すまん」と言って車道側に移動した。
言葉は少ないし、表情もあまり変わらないし、真面目なことしか言わない、冗談だって言わない―――時々、大真面目な顔で冗談を返すことはあるけれど。
だから、何を考えているかよくわからないし、どうしたいのかもわかんない、けど。
・・・ああ、ど、どうしよう。
飲むか、と言われてもう一度向けられたストローに、私は口をつけられなかった。
・・・嘘でしょう、そんなわけない、そんなわけないのに。
どき どき どき どき。
様子のおかしい私に気がついたのか、斎藤が、少し咳払いをして呟いた。
「その、・・・あ、暑いな」
「・・・う、うん」
END
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