**原田先生編(夢)**
「なまえーー!!原田先生受け取ってくんなかったーー!!」
昼休みが終わる直前、友人が私に抱きついてくるなり大声でそう言った。
クラスメイトたちがチラチラとこちらを見ているけれど、彼女にとってそんなこと今はどうだっていいんだろう。
「ってか、断り方が慣れすぎててちょっとムカつく・・・」
ぐす、と鼻をすすり、手にしていたチョコレートを見つめて泣きそうな顔をしていた。
・・・せっかく作ったのに、受け取ってさえくれないなんて、原田先生はちょっと意地悪だ。
よしよし、と彼女の頭を撫で、自分自身にも言い聞かせるように言った。
「直接がダメでも、靴箱に入れておいたら受け取ってくれるよ」
「・・・うん」
私も、原田先生のことが好きだ。
それは友人に話してはいない。
もともと、友人が私に話してくれたとき、私は原田先生のことを恋愛対象で見てはいなかった。
原田先生の、ここが好きとか、優しいとか、彼女から話を聞いていたら、いつの間にかそういう目で原田先生を見るようになって、気が付いたらハマってた。
例えば教科書を読む声も、板書する字も。
授業中、目があったときに嬉しそうに微笑んで「じゃあ、次、なまえ」とそう当てられるのも嫌じゃない。
他の授業では絶対当てられないようにと顔を背けるのだけど、原田先生の授業は別だ。
・・・いつの間にか、先生を目で追っていた。
「え、一緒に行かないの?」
「あ、ごめんね・・・私ちょっと委員会の用事で図書室行かなきゃいけなくて」
「むー・・・、わかった。じゃあ、一人で行ってくる」
「がんばれ!じゃ、バイバイ」
用事なんてない。
でも、彼女と一緒に行っては、自分のチョコレートなんて入れられない。
適当に時間を潰して、隙を見て教員玄関に行く途中、嬉しそうにはしゃいでいた生徒たちとすれ違った。
靴箱にうまいこと入れられたのかな・・・。羨ましい。
ガサガサとカバンの中から取り出したのは、昨日―――結局今朝までかかったけれど―――作ったチョコレート。
いい加減付き合いきれないと、親に呆れられながら、納得が行くまで頑張ったのだ。
・・・私、必死に恋してる・・・なあ。
原田先生の靴箱を開くと、押し込められたチョコレートの数々。
甘い香りが充満した。
洋酒が入っているものもあるのだろう、きつい匂いに、少しめまいがする。
私の、これは・・・。
手の中のチョコレートをきゅっと握り締めて。
入る隙、ないなあ・・・。
「お、帰るところか?気をつけてな」
「先・・・っ」
慌てて、背中に隠してしまったチョコレート。
「どうした?」
「いえっ・・・その・・・」
直接渡す勇気が無いから、ここに来たのに。
伝える言葉なんて、一つだけなのはわかりきってる。
けれど、心の準備が―――
「・・・・・・あ、ちょっ・・・!?先生!?」
「お前のチョコレートは没収、だな」
「え・・・・・・」
「誰の靴箱に入れようとしてたのかは知らねぇけど、お前のチョコレートを他の誰かに食べられちまうのは、あんまり喜ばしいものじゃねぇからな」
「何、それ・・・」
「お前の気持ちは、俺が貰う」
「原田、先、生・・・?」
ファーストキスは、誰が来るかもわからない、教員玄関で。
“自分の本命以外受け取る気ねぇんだ、悪いな”
先生だからとか、生徒だからとか、そういうんじゃなくて。
必死に恋をしていたのは、私だけじゃなかった。
END
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