**薫編**
「ふん・・・」
・・・なんだ、可愛いことするじゃないか。
靴箱を開けば、チョコレートの箱が入っていた。
添えられた“千鶴”と書かれたメッセージカード。
直接渡せば良いのに、わざわざこんな事して。
ほんのちょっとだけ緩んだ頬をまた元に戻して、教室に居る千鶴に声をかけた。
「靴箱に?わざわざそんな回りくどい渡し方しないよ?」
「何っ・・・?」
嘘をついている顔ではなかった。
そうして、本当に自分で用意をしてきたらしいチョコレートを俺に手渡した。
「あ・・・、その・・・あり、がとう」
「どういたしまして」
微笑んだその顔に調子が狂う。
じゃあ、この靴箱に入っていたチョコレートは一体何なんだ。
訳がわからない、と自分の教室に戻ろうと廊下を歩いていれば、後ろから呼び止められた。
「ねえ、美味しかった?」
「・・・・・・沖田?」
「・・・あれ、まだ食べてないの?千鶴ちゃん泣いちゃうよ?」
先程靴箱から取り出したそのチョコレートの箱を見ながら嬉しそうに言った。
・・・ん、待てよ。
何で“千鶴”って・・・・・・。
「お前かっ!?」
「んー?何が?」
「悪ふざけもいい加減にしろよっ!これも!お前の字だろ!?」
「あれ、すっごく丁寧に書いたんだけど、よくわかったね。君、僕のこと好きなの?」
怒れば怒るほどこいつはきっと喜ぶんだ。
俺が言うのもなんだけど、本当・・・性格悪い。
「もういい・・・・・・真面目にお前の相手してると疲れる」
「ふーん、負けを認めるんだ」
「誰がっっ!!」
END
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