**斎藤編(やや沖斎)**
「うわっ・・・、え・・・!?」
朝、風紀委員が忙しい時間帯を見計らって、一君にも仕掛けをしておこうと靴箱を開けば、漫画みたいにドサドサとチョコレートが降ってきた。
広がった甘い香りと、散らばったチョコレートの箱。
・・・チョコレートを直接一君に渡す勇気のない女の子がこんなにいると思わなかった。
まあ、本人があんな感じだし、仕方ないのかな。
「総司、何をしている」
呆然と足元を見つめていれば、いつの間にか一君が玄関へと戻ってきていた。
しまったなあ、こんな筈じゃなかったんだけど・・・。
そして空箱を入れる隙も、隙間も無い。
どうやら一君に皆と同じ方法は通用しないらしい。
どうしようかな、そう考えて足元を見下ろせば、その中から一つ、一君が拾い上げ、まじまじと見つめていた。
「・・・これ全部、僕から君への気持ちだよ?」
「な、何っ・・・」
驚き顔を上げた一君の頬がほんのりと染まっているのは気のせいだろうか。
「そ、その様な筈が無かろう!」
「僕の気持ちを疑うの?酷いなあ」
「何訳のわからないことを・・・そ、そもそも、バレンタインとは、女子から男子へ・・・」
「性別なんて関係ないよ。好きな人にチョコレートを渡す日、だもんね?」
にこり、と笑いかければ、戸惑い、しどろもどろになっている一君がなんだか可愛く見えてきた。
「す・・・、好き、など・・・」
「一君は僕のこと嫌いなの?」
「・・・き、嫌い、では・・・」
「嫌いじゃないってことは?」
「す・・・・・・っ、」
「す?」
「・・・・・・予鈴だ、教室に戻るぞ」
「あ、逃げたーずるいよ一君、ねえ!」
・・・まあ、ある意味、成功ってことでいい・・・かな?
END
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