**永倉先生編(夢)**
「なまえ、帰ろ〜」
「あ、ごめん、今日ちょっと・・・」
「なに!?チョコ渡すってか!?誰に誰にっ!?」
女子は、本当に恋の話題が好きだなと思う。
のんびりと帰り支度をしていた筈の友人が、私に頭突きでもしてくるんじゃないかという勢いで振り向いた。
誰にも、言ってない。
言ったところで変に冷やかされるのも嫌だし、この想いが本当かどうかも自分で少し曖昧だ。
例えば卒業して会わなくなって、会いたいなと思うようになるのかなとか。
大学に進学して、新しい環境で新しい恋をするのかなとか。
これからずっと、先生のことを想い続ける自分が想像できなくて、好きかどうかも、わからない。
「ち、違うっ、せ、先生に呼び出し・・・」
「なーんだ、じゃ、また明日〜」
「うん、バイバイっ」
友人が教室から出るのを確認して、ホッと溜息をこぼした。
そうして私は、カバンの中に入っている本命のチョコレートをチラリと確認して、ぎゅっとカバンを抱きしめた。
あ、いた。
「永倉先生・・・?」
「ん?どうした、なまえちゃん」
・・・・・・なまえちゃん。
そう呼んでくれるのは嬉しい。
嬉しいのに、私以外のみんなもそうやって呼んでいるのが、苦しい。
「あの、こ、これを・・・」
カバンの中に入れてある、たった一つの手作りチョコレート。
丁寧に自分でラッピングもした。
・・・・・・手紙は、書けなかった。
言葉を選びすぎて、そもそも考えれば考えるほど、本当に私は先生のことが好きなのかわからなくなってしまって。
「おお、チョコレートか?」
もらってくれるだけでいい。
食べようが、捨てようが、とにかく今は、私の手からこれを受け取ってくれれば、それで。
「で・・・これは誰に渡せばいいんだ?左之か?土方さんか?」
私が両手で差し出したそれを受け取って、いつもの優しい笑顔でそう言った。
貰い慣れていない、そういうことなんだろうか。
きっと色んな人の仲介をしてきたんだろうな、そんな風にさえ思えてしまう。
確かに、原田先生も、土方先生もモテるし、素敵だなと思うけど。
「ち、違います・・・。永倉先生に、です・・・」
彼が受け取ってくれたそのチョコレートを見つめて、つぶやくくらいの小さな声しか出なかった。
目を合わせることもできない。
ドキドキが、全身を震わせる。
受け取れないと、返されるんじゃないか―――
「・・・・ん?・・・・・・え!?お、俺かっ!?」
あまりに意外すぎる出来事に、動揺しているのがわかる。
「・・・そうか、俺にか」
「・・・先生?」
「いや、その・・・なんつーか、嬉しいもんだな!」
好きだと言ったわけじゃない。
好きだと言われたわけじゃない。
それでも、先生が“嬉しい”と、そう言って笑ってくれたことに、頬が緩む。
「先生・・・あの・・・」
「どうした?」
「・・・いえ、その・・・・・・」
「ああ!ちょっと待ってな」
目の前でラッピングを解いて、箱を開けて、中のチョコレートを一粒ほおばった先生。
「うまい!」
先生の、そういうところ、ああやっぱり、大好きだ。
END
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