「ねぇ君、さっきからずっとここに居るけど、誰かと待ち合わせ?」

・・・・・・ナンパだ。変に絡むと面倒だから、こういう時はシカトするに限る。

私はいじっていたスマホにまた視線を落とした。

「男?それとも、女の子?」

シカトされてんの気づいてないのかこいつ・・・。早くどっかに行ってくれないかな。

聞こえていないフリで通そう。

「ちょっとお話しようよ」

ぽん、と肩に置かれた知らない男の手。・・・気持ち悪い。

寒気がして、私は思わずその手を避けるように半歩ずれた。

すると、その男から舌打ちが聞こえてきた。

「つまんねぇ女」


・・・・・・、最悪だ。


私のことを何も知らない初対面の男に、なんでそんなこと言われなきゃなんないの?

総司のバカ。何の連絡もなしに待ち合わせに遅刻するとか信じられない。


・・・・・・ばーか。



「ごめん!」

それから数分後、息を切らして走ってきた総司に、本当は泣いて抱きついてやりたかったけど。

遅刻の理由と、連絡をくれなかった理由が知りたくて、私は思わず彼の肩にグーパンチを食らわせてやった。

「なまえちゃん?」

「・・・・・・・・・信じらんない」

きっと私の不貞腐れたこの顔はありえないくらい不細工なんだろうなと思いつつも、うまく笑える自信がないから、ちらりと彼を見やってまた、コートのポケットに手を突っ込んだ。

「だから、本当にごめんね」

あなたが早く来ればさっき私はあんな嫌な思いをしなくて済んだのにと、頬を膨らませて怒ってるアピールをしてみせた。

本当は甘えたいの。会いたかったよ、待ってたよって、抱きつきたいくらい。

「・・・待たせたのはもちろん悪かったって思ってるよ。けど、ちゃんと謝ったでしょ?何そんなに怒ってるの?」

「・・・・・・・・・」

「言わなきゃわかんないって」

まずは総司からちゃんと話すべきだろう。

そっちが言わないなら帰ってやる、そう行動で示してやろうと総司に背中を向けた瞬間。

「ちょっ・・・、待ちなよ!」

「・・・っ」

腕を掴まれて先ほど立っていた場所に引き戻された。

そして、ドン、と壁を突いたのは総司の右手。

耳元から聞こえたその音に、私は思わず驚きに肩を震わせた。

「な、なにっ・・・」

「いい加減にしなよ、子供じゃあるまいし。こんなことで喧嘩するのとか面倒臭いんだけど」

真っ直ぐに私を見下ろす彼の瞳。

いつも私を甘やかしてくれるその瞳が怒りを孕んでいるのが嫌でもわかる。


「・・・・・・総司が遅刻なんてするから、私・・・」






「そんなどうでもいい男の言葉なんて、忘れさせてあげるよ」

「な・・・・・・、何・・・?」

「これを、取りに行ってた」

そう言って、鞄から取り出した箱を私に押し付けた。



ねえ、これって―――




「ただでさえ仕事押してて。しかもクリスマスイブだし、店もすっごい混んでて。おまけにお店のお姉さんが他の客注と取り違えてて、その確認に時間かかって。挙句、スマホの電池切れて連絡できないし」

彼のその言葉を聞きながら、私はそっと、その箱を開いた。

私のために必死で走り回ってくれてたんだって―――




「あのさあ・・・僕、君と結婚したいんだけど」



・・・・・・え・・・・・・えっ!?



「だからもう、機嫌直してよ」

「・・・バカ総司。何、この雰囲気の欠片もないプロポーズ」

「なまえちゃんが子供みたいに怒ったからでしょ!?」

「・・・・・・うん、それは、ごめんなさい」

「それで、返事は?」

「・・・・・・あ、」

「こう見えてすっごく緊張してるんだけど」

確かに彼の頬はほんのりと赤く染まっていて、じっと見つめていたはずの視線は、チラチラと私を窺うように見ていた。

「・・・ふふ」

「ねえ、どうして笑うの」

「だって、なんか、余裕のない総司って、あんまり見たことないから・・・可愛いなって」

「何言ってるの・・・君の方が可愛いに決まってるでしょ」




それじゃあ、お互いに笑顔が戻ったところで。



とろけるくらい甘くて、痺れるくらい刺激的な、


とびきりのキスをちょうだい




merry christmas...!!


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