雪が降るなんて、そんなロマンチックな演出はしてもらえなかった平日のクリスマスイブ。

寒い中、ホットワインを片手に、この幸せな瞬間を噛み締めるように、一歩ずつゆっくりと歩いた。

枝先まで括りつけられたイルミネーション。

大通りと交わる交差点に差し掛かれば、あっという間に現実に引き戻された。

「斎藤君、付き合わせちゃってごめんね?」

別々の地下鉄の駅に向かうため、今日はもう、さよならを告げなくてはいけない。


仕事終わりにイルミネーションを見に行こうだなんて、面倒くさい先輩だと思われていないだろうか。

真面目な彼のことだ。きっと先輩からの誘いを断るに断りきれなかったんだろう。

けれど彼に恋人が居るなら、予定が入っているからと断ったって良いのに。

今ここにこうして一緒に居てくれることに、彼にも特に予定がなかった、イコール恋人が居ないのだと、都合のいい解釈をしてしまっていいだろうか。

そうして、また明日、そんな言葉を紡ごうとしていた時。


振り返ればまだ、キラキラと輝くイルミネーション。

もう一往復くらいしたいな、そんな風に名残惜しそうに見つめていれば、彼が柔らかく微笑んだ。



「・・・あんたが楽しそうにしているのを見るのは、飽きない」


―――え?


いつもは口数が少なくて、私のくだらない話に相槌を打つだけの斎藤君が、今、何を。

ホットワイン一杯で酔っ払うなんて、お酒の強い彼にしては有り得ないだろう。



斎藤君がちらりと腕時計を確かめて、私が答えるよりも先に、また口を開いた。

「まだ、終電まで時間がある。あんたさえ良ければ、だが」

先ほど歩いてきたイルミネーションが輝くその通りの先に、もう一度視線を移した、その意味。

まさか、私と同じことを考えてくれたんだろうか。

まさか、まさか―――。

「・・・・・・えっと、あの、斎藤君、」

「明日も仕事だ。もし今日が無理ならば・・・そうだな、明日は俺に付き合ってはくれぬだろうか」

「・・・どうして」

「・・・すまない。酒が入るといつもより饒舌になる。嫌ならば、無理強いは―――」

少しだけ困った顔をして、私を見つめた彼は、悲しそうに微笑んだ。

「違うの!・・・そうじゃなくて、あの・・・私も同じこと、考えてたから・・・・・・っ」


ぐらりと、視界が揺れた。


瞬間、お互いがまとっていた冷たい空気が重なって、冬の匂いが鼻を掠めた直後、斎藤君の香り。

そうして、抱き締められた腕の中。



「叶うなら、今夜あんたを離したくないと願っても、良いだろうか」

「・・・斎藤、君?」

「・・・少し言い方を間違えた。今夜だけではなく、これから、ずっと」


想いが重なるのだと、気がついたその瞬間ほど、どきどきすることは無い。

彼の願いを叶えるのは私だと伝えようと、ゆっくりと体を離せば。


「やだ・・・斎藤君顔真っ赤じゃない」

「あ、あんたは何故わざわざそのようなことを・・・っ」

「何、もしかして照れてる?・・・あ、こら!逸らさないの!」

「さ・・・酒のせいだっ」

ふい、と背けてしまった彼の顔を追いかけるように覗き込んだ。

「・・・ね、ちゃんと見て?ほら」

「なに―――」

私から、ほんの一瞬唇を重ねて見せれば、どこまでも真っ赤になる彼が本当に可愛くて。

「ね、行こっか、もう一往復!」

「・・・・・・なまえ」





白の奇跡




降り始めた雪に、顔を見合わせて微笑んだ。





merry christmas...!!


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